経営×ソーシャル
おもてなしで飯が食えるか?
【第3回】 2014年7月3日
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山口英彦 [グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

「割愛」で顧客満足度を業界トップクラスにできる!?
~おもてなしで頑張らない

従業員の余裕が、
次のおもてなしを生む

 おもてなしで勝負する部分を絞り込む意味では、顧客にとっての価値が大きくない作業には従業員の労力を使わずに、ITや機械での代替ができないかを考えたいものです。先のスーパーホテルでも、チェックイン時の手続きのほとんどは機械が済ませてくれるので、フロントの従業員が直接対応するのはイレギュラーな依頼があった時のみです。

 近年の介護の現場で、高齢者が身を任せたままベッドや浴室、車いすや自動車の間を移乗できるリフトという介護機器の浸透が進んできています。元々は介護職員が持ち上げて移乗を助けてきましたが、転倒事故が絶えなかったり、職員の8割が腰痛を訴えたりと非常に負担の重い作業でした。リフト自体に高度な技術が使われている訳ではないそうですが、これまで導入が進まなかったのは、現場の「利用者や家族が不安に思うのでは?」という危惧や、「人手での介護だけが温かみがある」という固定観念があったためです。※3

 このように、我々が何となく抱いている「従業員の技能や頑張りこそが、おもてなしの源泉である」という思い込みを排し、「従業員の手作業が本当に価値を生んでいるのか?」と意識的に自問していかないと、ITや機械の活用はなかなか進みません。

 またITや機械に頼る以外にも、顧客自身に動いてもらう発想が有効な場合もあります。「長崎ちゃんぽん」が人気のリンガーハットでは、昨年末から一部店舗で実験的にセルフサービス形式の「myちゃんぽん」をスタートさせています。顧客は来店すると、ショーケースを覗きながら好きな具材を自由に選んでオーダーができ、その後、厨房での調理が完了するとブザーで知らされ、顧客が自分でピックアップに行く仕組みになっています。大した工夫に聞こえないかもしれませんが、顧客自身に動いてもらう「myちゃんぽん」の仕組みによって、リンガーハット側ではフロア専門のスタッフが不要となり、残りのスタッフがそれ以外の接客や調理に専念できるようになったそうです。

 こうした「顧客に動いてもらう」発想も、現場で提案すると「お客さまに失礼だ」とか、「お客さまとの会話が減って冷たい雰囲気の店になってしまう」と反論されがちです。肝心なのは、「その作業は顧客にとって価値を生んでいるか」と「顧客が動くことで、顧客自身が何かメリットを享受できるか」でしょう。リンガーハットの取組みについて言えば、ネット上での感想を見る限り、「カスタマイズできてうれしい」はもちろん、「接客もいい」「昔よりあらゆる面で良くなった」と好評のようです(実際の売上面でも、具材を追加する客が多く、客単価も以前より10%ほどアップしたとか)。※4

※3 2012年9月26日付 日本経済新聞朝刊「選ばれる介護へ(下)」
※4 2014年2月4日放送 ガイアの夜明け「人が足りない…“外食”驚きの一手」(テレビ東京

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山口英彦[グロービス マネジング・ディレクター、ファカルティ本部長]

東京大学経済学部卒業、ロンドン・ビジネススクール経営学修士(MBA、Dean's List表彰)。 東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、ボストンコンサルティンググループ等を経て、グロービスへ。現在は同社の経営メンバー(マネジング・ディレクター/ファカルティ本部長)を務めながら、サービス、流通、ヘルスケア、エネルギー、メディア、消費財といった業界の大手企業クライアントに対し、戦略立案や営業・マーケティング強化、新規事業開発などの支援・指導をしている。また豊富なコンサルティング経験をもとに、経営戦略分野(新規事業開発、サービス経営、BtoB戦略など)の実務的研究に従事。米国のStrategic Management Society(戦略経営学会)のメンバー。 主著に『法人営業 利益の法則』(ダイヤモンド社)、『サービスを制するものはビジネスを制する』(東洋経済新報社)、『日本の営業2011』(共著、ダイヤモンド社)、『MITスローン・スクール 戦略論』(共訳、東洋経済新報社)。


おもてなしで飯が食えるか?

オリンピック招致の最終プレゼンを契機に、各所で注視されている「おもてなし」。日本人の細やかな心づかいを製品、サービスに反映させて収益向上につなげようと考える企業は多いと思うが、そこに落とし穴はないか?グロービス経営大学院の山口英彦が近著『サービスを制するものはビジネスを制する』のコンセプト等も反映させながら問いかける。

「おもてなしで飯が食えるか?」

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