ガバナンス強化は大事だけど…

 先週、安倍政権が新たな成長戦略を策定しました。法人税の具体的な減税幅が明記されていない、岩盤規制の改革も取っ付きやすい部分しかやっておらず、かつ具体的な改革内容は所管省庁の今後の検討に委ねているなど、その気になればいくらでも問題点は指摘できます。

 それでも、取り組んでいる改革の方向性が正しいのは間違いなく、合格点と言える出来になっています。特に評価すべきは、コーポレートガバナンスの強化を一丁目一番地に持ってきたことです。

 金融を除く全産業で300兆円もの内部留保を抱えていながら、日本企業が産み出すイノベーションが少ないということは、経営陣に問題があるとしか思えません。ガバナンスの強化によりパフォーマンスの悪い経営者の流動化を促すのは、日本経済の再生のためには農業や医療、雇用制度の改革以上に重要な改革だからです。

 ただ、それではガバナンスに問題があるのは民間企業だけかと言えば、そんなことは全然ありません。政府やメディアの側のガバナンスの欠如も甚だしいからです。今週はそれを象徴するかのような問題報道がありました。7月1日付けの日本経済新聞朝刊の1面トップに「国立大、相次ぎベンチャーキャピタル 計1000億円投資」という記事が出たのです。

日経新聞に掲載された論外な記事

 この記事は概要、以下のように報道しています。

①国立大学が、自らの研究成果を生かした起業を支援するベンチャーキャピタルを相次いで立ち上げる。京都大と大阪大が第1弾。経産省と文科省が両大学の計画を精査していて、今夏にも承認。運用規模は両大学で400億円。今年後半には東京大と東北大も申請する見込みで、両大学による運用規模は600億円。

②投資先の事業性を見極めるため、VCのメンバーの過半数は外部から招く、VC投資に詳しい金融関係者や、最先端の科学技術に明るい人材を招く。

③大学の研究成果は基礎的な段階のものが多く、投資の回収に時間がかかるため、民間のVCは投資しにくい。今回の仕組みを活用すれば、事業化まで10年はかかる基礎研究にも資金を投じることができる。

④これまでも京大が民間の金融機関に名義を貸してVCを立ち上げるなど、国立大が間接的にかかわる例はあった。ただ、直接の出資は法律上できなかった。民間資金だけでは大学の成果を事業化しにくいという課題があった。

 この記事だけを読むと、日本でも米国のように大学発ベンチャーが増えそうで、非常に良い動きが始まったように見えます。しかし、現実は正反対で、この記事は官邸も問題視している予算案件を美化しているだけなのです。