意地とプライドにこだわり
見誤らせたもの

 私は自分でも気づかぬうちに、傲っていた。

 エスグラントの売上げが180億円を超えた2006年の決算の後、次期の売上げ目標を策定するために、グループ会社の役員を集めた経営会議を開催した。グループ8社の実績と成長見込みを徹底的に議論した。役員たちが活発に意見を交わす。

「さらなる成長のためには、地方への進出しかありません」
「やろう。ただし、地方でのノウハウは少ないから、慎重に取り組む必要がある」
「不動産価格が高騰してきているので、今までのような仕入れはおぼつかない可能性もあります」
「いや、それでもやるしかない」

「それより、この状況でファンドに入れる分は用意できるのか?」
「何とかします」
「成長する東南アジアへの投資も真剣に考えたほうがよさそうだな」

 4時間ほどは議論しただろうか。ようやく、上限で250億円、下限で200億円とする売上げ目標の数字が定まろうとしていた。締めくくりに、私の発言が求められた。
厳かに、私は言った。

「目標は、350億円だ」
「えっ?」
役員たちが唖然として見つめてくる。

 4時間もの議論を尽くした末に、上限で250億円とする目標に決まりかけていた。社長はいったい何を聞いていたんだ、とでも言いたげな表情だ。
「俺たちは、こんなところで足踏みしてる場合じゃない」
「いや、しかし社長」