ゼロから起業し、エスグラントは上場を果たしものの、リーマンショックにより全財産を失い破綻、その後再びゼロから起業、成功させた若き経営者が心に刻んだ教訓を綴った『30歳で400億円の負債を抱えた僕が、もう一度、起業を決意した理由』の出版を記念して、第2章を順次公開。上場を果たしてまさに人生の絶頂にあった著者の視界に暗雲が漂い始めます。第4回ではいよいよサブプライムの火の手があがる。

銀行の融資が止まれば
業績は一気に落ちる

 明らかに風向きが変わったのは、まだまだ暑い日が続く9月のことだった。それはちょうど2007年6月期の決算説明会が行なわれる直前だった。

 その頃、「サブプライムは対岸の火事」と思っていたとはいえ、友人の警告が心に引っかかっていたこともあり、私は社員たちに「仕入れを控えて、保有物件の販売に力を入れよう」と指示をしていた。とはいえ、好条件の物件があれば話は別だ。

 ある物件を仕入れるために、私は銀行の担当者を呼んだ。銀行にとって、私とエスグラントはこの上ない融資先になっている、はずだった。

「港区青山でいい物件が出たので仕入れたいと思っているんです。今回もエクイティは10%で、残りの融資をお願いします」
エクイティとは自己資本、つまり頭金のことだ。いつもであれば、向こうから頭を下げて「借りてくれ」とまで言ってくる相手だ。私としては、当然ふたつ返事で融資が決まると思い込んでいた。

 ところが、この日に限って担当者の歯切れが悪い。
「社長、大変申し上げにくいんですが、昨今の金融情勢もあって、当行の事情もいろいろと揺れておりまして。今回については、御社でご用意いただくエクイティを20%にできませんか? それであれば、一応、本部に稟議を上げてみます」
「一応?」

 担当者は引きつった笑顔を浮かべ、むしろ「もう買わないほうがいいんじゃないですか?」とでも言い出しそうな雰囲気だった。
サブプライム問題の影響で、8月頃からヨーロッパなどで不穏な波が起き始めていた。