土砂降りの嵐の前のような暗雲
「もう一度言う、来期の目標は350億円だ。中間決算が順調に進めば、そこで大規模なエクイティファイナンスを発表する。俺の計算では、そこで自己資本は85億円を超える。自己資本比率を15%ギリギリまでバランスシートを膨らませて一気に勝負をかけて、東証上場も来期に達成する。そして、さらに450億、600億と売上げを伸ばし、5年後には1000億円を売り上げる会社になるんだ。目標は350億円だ。目標は達成するためにある。ただのお題目だと思うヤツは即刻エスグラントから去ってほしい」
私は強烈な言葉で会議を締めくくった。財務担当役員の前田が各部門の上限に上乗せし細密に計算した結果、その年の売上げ目標は320億円として公表した。
それでも「絶対に上方修正をするんだ!」と、私は不満だった。
さらには1000億円の売上げを目指すための長期経営計画も発表した。結果的にファイナンスはCBという形で成功し、2007年の決算では377億円もの売上げを叩き出すことになるのだが、4時間にもわたる各部門の役員たちの真剣な議論を、私はたったひと言で吹き飛ばしてしまった。
たしかに、私の思惑通りに計画が進んだからこそ目標を達成できた。しかし、経済情勢は刻々と変化する。私は経営者として、いや、それ以前に人間として大切な何かを忘れてしまうようになっていたのだろう。ほとんどが年上の役員やグループ会社社長の経験や見識もふまえて、慎重に判断を下すべき大事な局面で、私は自分の意地とプライドにこだわり続けたのである。
私は、「業績」という名の魔力の前に、経営者としての正気を失い始めていた。仲間への敬意、ものづくりの精神など、今まで大切にしてきたエスグラントの文化を、自らがハンマーで粉々にしていくようだった。
川田への仕打ちは、私を蝕み始めていた「傲り」を象徴する出来事だったといえる。
川田がエスグラントを退社してすぐに、さらにマーケットの風向きが変わり、川田の後を追うようにして何人かの役員や部長が退社していった。
エスグラントを、土砂降りの嵐の前のような暗雲が覆い始めていた。
(つづきは、本書でお読みください)
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『30歳で400億円の負債を抱えた僕が、もう一度、起業を決意した理由』
早すぎた栄光、成功の罠、挫折、どん底、希望……
「すべての経営者にとっての教訓だ」――藤田晋
「150%の力で走る起業家の現実を読んでほしい」――堀江貴文
起業した会社を上場させ、倒産して地獄を味わい、そこから復活するまでに経験した出来事から、私はたくさんのことを教えられた。 なぜ私は地獄を味わうことになったのか。 なぜ私は復活できたのか。 この5年間の出来事と、私自身が考えてきたことを、正直に書き留めておこうと思う。
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○プロローグ ベンチャー経営者であることを
○第1章 絶頂──ワンルーム販売から、総合不動産業。そして都市開発へ
○第2章 暗雲──「傲り」を象徴する出来事が僕を蝕み始めていた
○第3章 地獄──暗闇の断崖を転げ落ちながら必死でもがき続けた
○第4章 奈落──民事再生、自己破産、絶望しそうな淵の底で
○第5章 希望──2年間は修行と決めて真にやりたい事業を見つけ出す
○第6章 感謝──どん底で知った感謝とともに新しい道を歩いていく