2016年、電力小売り市場は一般家庭向けの小口電力市場も解放され、完全自由化される。全国で約7.5兆円の市場が開放されるとあって、続々と新規参入企業が表れている。大手電力会社10社以外で、電力小売り事業を行う新電力の届出数は、7月23日現在で実に302社。東日本大震災の際はわずか46社程度だったので、この3年で6.5倍に急増した。しかし、「電力小売り市場完全自由化」と言われても、これまで大手電力10社から電気を買い続けてきた多くの人にとって、具体的にどのような変化が訪れるのか想像しにくい。そこで、すでに自由化されている事業者向けなどの大口電力市場での最新事例をレポートし、今後起こる小口電力市場での変化を考えてみたい。(取材・文/ダイヤモンド・オンライン編集部 片田江康男)
最大のポイントは
電気の“見える化”
「節電しろって社内で言っていましたが、それは単なる念仏に過ぎなかったんです。電気使用量が“見える化”されて、社員の行動ががらりと変わりました」
こう話すのは、北関東を中心に北海道まで12ヵ所の物流センターを抱える共進運輸の山下茂社長。同社は大手食品メーカーの冷蔵物流を担っているため、物流センターにはすべて、大型の冷蔵庫を備えている。その大型の冷蔵庫の開閉口には、荷台後部の冷蔵庫の開閉口をくっつけた大型冷蔵トラックが何台も並び、ひっきりなしに顧客から預かった要冷蔵の食品を搬出、搬入している。
24時間態勢で稼働しているため、同社の電気代は毎月数千万円。いかにこれを圧縮するかが、大きな経営課題だった。しかし、山下社長が全社に節電の号令をかけ、社員も冷蔵庫の扉の開閉に気をつけたり、こまめに電気を消したり工夫しても、なかなか目に見える効果が得られなかったという。
そこへ、東日本大震災が発生し、計画停電を経験することになる。
「うちは冷蔵庫が止まってしまうと、お客さま企業から預かっている食品が全部だめになってしまう。本当に危機的状況でした」(山下社長)
山下社長は当時を思い返す。しかし、皮肉にもこの経験が同社を大きく変えるきっかけになった。