刑務所にはバスケットボールのコーチが雇われていた。刑務官だったが、俺たちにこっそり食い物を持ってきてくれたりした。人間には骨の髄まで欲が染みついていることを俺は知っていた。カネを渡せば、どんなことでもさせられる。はした金で人を買えるんだ。理解に苦しむところさ。俺はいつも支払うほうが多かったけどな。

 ある日、「なあ、女を調達してくれないか?」とそいつに言った。あいつは「何人欲しいんだ?」って感じでそこに突っ立っていた。

「いやいや、そんな難しい話じゃないんだ。あそこの女性刑務官、やれないか? 抜群だろ? あいつなら千ドル払うぜ」

 そいつが考えていたのは自分の手数料のことだった。

「本気か、マイク? 本気ならすぐ話をつけにいくぞ。あの女はクラブ時代からの知り合いだ。きっとあんたの申し出を受けるさ」

 相手は刑務官だし、「心配するな。あとでそれとなく伝えておくから」とか言うと思いきや、あいつはやる気満々で、ちょっと不安になった。

「ブラザー、ブラザー、それじゃ野蛮人だ」と、ウェイノがたしなめた。「部屋に行って顔を洗ってこい、ちょっとはビジネスマンみたいに振る舞え」

 そう言われて、女刑務官とやる考えは捨てた。

 このころには、ほかの受刑者ともうまく付き合っていた。俺は刑務所の大物だ、ひょっとしたら外の世界にいたときよりずっと大物かもしれない、と感じていた。俺の自惚れはそこまで狂っていたんだな。だが、刑務所の基準に照らすかぎり俺が心根のいいやつなのは、みんながわかってくれていた。白人でも黒人でも何人(なんぴと)でも、必要なものがあってそれをマイクが持っていれば手に入る。なんの見返りもなく。

 ウェイノが出所していくころには、オールAの模範囚だった。塀の中にいるあいだ、酒を飲んだことは一度もなかったし、マリファナも吸わなかった。俺が欲しがっても、誰も売っちゃくれなかっただろうけどな。とにかく俺には、体を鍛えて、いいコンディションで出所して、また戦ってほしいと、みんなが願っていた。

(続く)