孫武の戦略、二つの重要ポイントとは何か?

『孫子』の「始計編」や実際の戦いから、彼の戦略は二つの大きなポイントを持っていることがわかります。

(1)張り合うことで敵が疲弊するポイントを攻める

 おとりの作戦とも知らず、楚軍は何度も出撃を繰り返し疲弊しました。相手が張り合おうとすると、途端に疲弊する要素を攻めることが孫武の戦いのポイントになっています。

(2)相手の強みとは違う場所で勝負する

 楚軍は決戦の場所と考えたところからおびき出され、孫武の呉軍が準備万端で待ち受ける戦場に移動せざるをえませんでした。

 二つのポイントは相互に関連し、同時に行われると敵は手も足も出ません。近年、飲食業界で大きな話題の人気店「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」は、孫子の戦略と重なるビジネスの典型例です。

 中古書籍販売のブックオフ創業者、坂本孝氏によるこのレストランは、他の飲食店がマネしたくてもできない、張り合えば必ず疲弊するモデルとなっています。

「一流の料理人が、一流の食材を使い、しかも低価格」。一般的な飲食業の原価率30%を大きく超えて、原価率60%で食材を提供しています。

 なぜこれが可能なのか。立ち飲みスタイルの採用で、テーブルの回転率を高めているからです。同じ床面積で座席数は2倍、一日の回転率は3倍近くとなり、食材の原価率を2倍にしても採算が合うのです。

 しかも料理するシェフは、高級ホテルで修業した一流の職人たち。高級店は、これほどの回転率はありえないので、原価率で対抗すると赤字になり、張り合うなら疲弊せざるをえません。

 また、フレンチレストランにもかかわらず「リーズナブルでおいしい」という強みは、高級フレンチの「雰囲気がいい」「特別な会食」という強みとは明らかに違う場所で勝負しています。肩が触れ合うようなスペースで、立ちながら食事を楽しむのですから。

 同様な仕組みに、品質を重視する業界にスピードで勝負をかけ、受注率と利益率を同時に高める攻め方もあります。

 住宅関連など、見積りに数日から一週間かかる商品に、ネット専門の返信部隊を配置し、24時間以内に概算見積りを出す企業があります。他社は「品質や丁寧な対応」が勝負と考えているので対抗できず、このスピードでは古い体制の営業部隊は疲弊するだけです。

 初回のメール返信が別部隊のため、以降を担当する営業マンの負担が軽くなり、複数案件の担当を容易にしています。見積りが一番早く届くことで受注率を高め、担当者が多数の案件を管理できることで、利益率も上げることができています。

 張り合うと疲弊するポイントを攻める。相手の強みとは違う場所で勝負する。敵にしてみれば「最もイヤな攻撃」です。戦略の始祖とも呼べる孫武の手法は、相手のある競争を前提とした戦略として、えげつないながらも極めて効果的だといえるでしょう。

「小が大に勝つ」には、大が反撃を躊躇する手段が小に不可欠です。相手ものんびりこちらの活動を眺めるだけではないからです。大は元気な小が伸びることを阻止すべく必ず動きます。「小が大に勝つ」には、孫子の二つの戦略が極めて重要になるのです。