ここまで1年余りにわたり、日本の年金制度や人的資本という自分自身の稼ぐ能力、そして株式や債券といった資産運用の基礎となる資産などについてお話ししてきました。このコラムを読んで下さっているオヤジ世代の方の中にも、全体観のようなものが見えてきたので、そろそろ自分年金作りを始めてみようという気になった方もいらっしゃるかもしれません。
でも、その前に学ぶべきことがもう少しあります。日本の年金制度や株式や債券の基礎的な知識は兵法で言うところの「敵を知る」ことであって、勝負に勝つにはそれだけでは不十分です。通常、皆さんがビジネス上の戦略を立案する際には、「自社の強み・弱みは何なのか」を考えますよね。ゴルフでも「ドライバーが右にスライスする傾向がある」という特徴を考慮してティーショットを打ちますよね。これと同様、資産運用においても自分の特徴を知ることが大切です。孫子の兵法に「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」とあるように、資産運用の成功の確率を上げるには、“己”についても知る必要があるのです。
そこで今回から数回にわたって、「行動ファイナンス」という比較的新しい学問の切り口から、マーケットではなく、それに接する際の人間の特性に焦点を当ててお話しします。マーケット特性や投資理論を頭では理解できても、人間にはなかなか、それを正しく実行に移せない悲しい習性があるのです。そのようなバイアスに陥らないための工夫をいくつかご紹介しますが、それらは特別難しいものではなく、誰にでもできるものですので、初心者の方もご安心ください。
では早速、行動ファイナンスの話に入りたいと思いますが、その前に現状認識として、このようなバイアスが災いして個人投資家の運用がいかに上手く行っていないのかについてお話しします。