戦争の歴史から生まれた冷徹な原理原則

『孫子』は戦争、民族や国家の存亡を賭けた戦闘に勝つことを目的に書かれていることで、極めて冷徹かつ、徹底したリアリズムを持っています。ここでは、『孫子』の中でも特に有名な指摘を4つ抜き出しておきます。

(1)「目的は勝利であって戦いではない」

 戦争は勝つことが目的であって、戦うことが目的ではない。勝利しても、当初の目的が達成できなければ結果は失敗だと指摘しています。手段に溺れ、大切な目的を忘れてはいけないのです。

(2)「百戦百勝するは善の善なるものにあらず」

 100回勝ったとしても、それは最上の勝利ではなく、戦わずして相手を屈服させることこそ、最上の勝利です。戦上手は、武力に訴えることなく敵軍を屈服させ、城を攻めることなく陥れ、長期戦を行わずに敵国を滅ぼすのです。

(3)「敵を知り己を知れば百戦危うからず」

 敵を知り己を知れば、絶対に負ける心配はなく、己を知って敵を知らなければ、勝敗の確率は五分と五分。敵を知らず己も知らなければ、戦うたびに危険な目にあうのです。

(4)「まず勝ちてのち戦う」

 本当の戦上手は、まず勝ちうる条件をつくり、自然に勝つ。確実な方法で勝ち、打つ手打つ手がすべて勝利に通じる。勝敗は、まず勝利の条件を整えてから戦争を始めるか、まず戦争を始めてから勝利をつかもうとするかが分かれ道。勝利を収めるのは常に前者なのです。

相手が一番嫌がる戦略を選び、会戦の前に勝利を決める

 孫武は2500年前に、勝者と敗者の違いを観察し続け、両者の違いをその書に残しました。現代ビジネスマンは「戦争の火攻め」の方法を学ぶことはなくても、孫武の観察眼が解明した「勝者と敗者の違いによる、勝負の基本原理」の発想を学べます。

 張り合うと相手が疲弊する勝負を仕掛けるなら、相手はこちらの攻撃を、指をくわえて見ているしかありません。相手の強みと違う要素で勝負することは、相手の強みを無効化することです。さらに、戦いを始めてから考えるのではなく、勝つための仕組みの準備は、すべて勝負を始める前に完了することを孫武は常に強調しています。

 敗北すれば国家が亡ぶ古代中国の戦略には、勝利への純粋な冷酷さと執念があります。二つのポイントを軸に、相手が「手も足も出ない」状態で完勝する。やみくもに勝負を始めず、完璧に勝つ状態をつくり上げてから作戦を開始する。孫武の指摘は2500年を経ても、いまだ輝きと示唆を失っておらず、時代を超えた「最強の戦略書」に相応しい提言がなされているといえるでしょう。

※この記事は、書籍『戦略の教室』の原稿を一部加筆・修正して掲載しています。


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著者紹介

3分でわかる『孫子』<br />「敵の意表をついて小が大に勝つ」

鈴木博毅(すずき・ひろき)
1972年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部卒。ビジネス戦略、組織論 、マーケテイングコンサルタント。MPS Consulting代表。貿易商社にてカナダ・豪州の資源輸入業務に 従事。その後国内コンサルティング会社に勤務し、2001年に独立。戦略論や企業史を分析し、新たなイノベーションのヒントを探ることをライフワークとしている。日本的組織論の名著『失敗の本質』をわかりやすく現代ビジネスマン向けにエッセンス化した『「超」入門 失敗の本質』(ダイヤモンド社)は、戦略とイノベーションの構 造を新たな切り口で学べる書籍として14万部を超えるベストセラーとなる。その他の著書に『企業変革 入門』『ガンダムが教えてくれたこと』『シャアに学ぶ逆境に克つ仕事術』(すべて日本実業出版社) 、『空気を変えて思いどおりに人を動かす方法』(マガジンハウス社)などがある。