優秀な人ほどライバルから敵対視される

 マキアヴェリは残念ながら、失脚後、二度と権力の中枢で活躍できませんでした。復活したメディチ家に写本を送るも返答はなく、次の当主ジュリオ・メディチが彼に与えた仕事は「フィレンツェ史」を書くことだったのです。

 なぜ、彼の目論見は失敗したのか。『君主論』でイタリア統一への英雄的な君主がいま、求められていると自らの理想を述べていますが、これは彼が出会ったチェーザレ・ボルジア(当時すでに戦死)が模範であり、一方でジュリオはチェーザレほど英雄的な人物ではなく、マキアヴェリの理想は重すぎると感じたであろうこと。

 また、メディチ家を打倒した、新共和政府側にしても、『君主論』を書き上げたほど冷徹で優秀な頭脳を持つマキアヴェリが新政府に入れば、自分の地位が奪われると恐れた人が大勢いて、彼を遠ざけることが利益と判断したであろうことが挙げられます。

 理想を持つ人間は為政者の純粋な道具になりきれず、あまりの優秀さを隠さず見せたなら、強力なライバルと見なされて遠ざけられる。彼ほどの人物が、自分の姿がどう見えるかをわからず、メディチ家に取り入った矢先に「共和政に戻る」という運命の冷たい仕打ちも重なり、絶望の中で夢を果たせずにこの世を去ってしまったのです。

※この記事は、書籍『戦略の教室』の原稿を一部加筆・修正して掲載しています。


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著者紹介

3分でわかる『君主論』<br />「『正しい目標』を掲げて人を動かす」

鈴木博毅(すずき・ひろき)
1972年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部卒。ビジネス戦略、組織論、マーケテイングコンサルタント。MPS Consulting代表。貿易商社にてカナダ・豪州の資源輸入業務に従事。その後国内コンサルティング会社に勤務し、2001年に独立。戦略論や企業史を分析し、新たなイノベーションのヒントを探ることをライフワークとしている。日本的組織論の名著『失敗の本質』をわかりやすく現代ビジネスマン向けにエッセンス化した『「超」入門 失敗の本質』(ダイヤモンド社)は、戦略とイノベーションの構造を新たな切り口で学べる書籍として14万部を超えるベストセラーとなる。その他の著書に『企業変革 入門』『ガンダムが教えてくれたこと』『シャアに学ぶ逆境に克つ仕事術』(すべて日本実業出版社) 、『空気を変えて思いどおりに人を動かす方法』(マガジンハウス社)などがある。