なぜ兵法書を読み込んでも、実際のビジネスで使えないのか? ビジネスパーソンの間でも人気が高い古代の兵法。しかし、そのまま現代のビジネスに応用しようとしても使えないことが多い。なぜか? それは軍事戦略とビジネス戦略の大きな違いを理解していないからだ。今回は戦略の肝となる「目標設定」の重要性について解説する。

優れた戦略に共通する3つのポイント

 孫子、アレクサンダー大王から最新のアダプティブ戦略まで、過去3000年間の戦略を俯瞰した時、軍事戦略とビジネス戦略にはいくつか共通する要素があることがわかります。端的に言えば、次の3つのポイントはどちらの成功にも必要不可欠です。

【成果につながる3つのポイント】
(1)優れた目標(の必要性)
(2)幅広い手段(を見つける能力)
(3)リスクを限定して成果を拡大(そのための計画と実践フィードバック)

 ナポレオンは初期のイタリア遠征では、重要な陣地を巡って戦闘をするのではなく、自軍が数の上で有利になる戦場を求めて、ひたすら移動をしています。ナポレオンは戦闘をする際、局地的でも必ず自軍の数が優勢になることを大目標としていたからです。

 アレキサンダー大王は、洋上の要塞都市テュロスを攻略する際、大船団を創り上げるのではなく、陸から1キロを埋め立てて桟橋にしてしまい、屈強な陸軍で洋上都市を敗北させました。優れた手段を見つけるほど、目標達成は容易になるのです。

(3)には、計画と実践のフィードバックが必要だというのは当然に思えますが、隠れた重要ポイントです。何かに挑戦する際に、リスクと成果のバランスが悪ければ、その挑戦は続けることができないからです。

 太平洋戦争で日米が激突した際、米軍は戦闘機のパイロットに救助訓練を受けさせることで、海上に不時着しても必ず自軍が救助してくれると確信させて戦わせました。米軍パイロットは不時着する寸前まで勇敢に戦い、救助されてまた戦場に復帰ができたのです。

 日本軍は救命装置を装着しない戦闘機で、死ぬまで戦うことをパイロットに要求しました。結果、優れたパイロットの大量損耗(死亡)を招き、戦闘継続が困難になったのです。

 ビジネスにおいても「リスクを限定し成果を拡大」することは重要な課題です。トヨタの生産方式は作りすぎの無駄を省くことで、リスクを限定させていますし、アダプティブ戦略は事前計画の予測を販売上のリスクにしない思想を持っています。

『イノベーションのジレンマ』の著者であるクレイトン・クリステンセンは、新たな市場を切り拓く破壊的イノベーションに成功するためには、小さな機会や小さな勝利にも前向きになれる小さな組織にプロジェクトを任せる重要性を指摘しています。未知の顧客を発見する挑戦を続けるには、リスクを限定できる組織構造が不可欠だからです。