リーダーが身につけるべき「生き残るための条件」
冷酷な統治術や、人心掌握術ばかりが有名な『君主論』ですが、全体を俯瞰すると、リーダーが学び、行動に活かすべき要素をバランスよく論じていることがわかります。ここでは本書なりに『君主論』の7つの要素をまとめてみます。
(1)「君主は歴史上のリーダーの成功と失敗から学べ」
多くの場合、君主が直面する選択は、すでに「過去のリーダーが答えを出した成功事例と失敗事例」があるのだから、重要な参考にすべきである。
(2)「状況こそが、常に最善手を決める」
用意周到な二人の人物がいても、一人が成功しもう一人が失敗するように、成功と失敗は「時代や状況と合致しているか否か」で決まる。栄枯盛衰も同じで、忍耐強い君主も時代が合えば繁栄するが、状況が変化すれば衰える。これは君主が生き方を変えないためで、即応できる賢明な人間は稀である。
(3)「人を従わせるリーダーは、恨みを買うことなく恐れられよ」
愛されてかつ恐れられることが理想だが、両方できないときは、君主は「恐れられる」ほうがいい。鷹揚な態度を見せると相手は甘く見て、たまに必要な厳しさを発揮すると反発される。一方、日ごろ恐れられている君主は、稀に鷹揚さを見せると人は慕うもの。愛されないのであれば、恨みを買わずに恐れられることが最上である。
(4)「国を守るための冷酷さを発揮せよ」
国を守り秩序を維持するため、冷酷さを発揮する人は、それで国が保たれるならむしろ憐れみ深い人である。悪名を免れるため国を混乱に陥れる者は、全領民を傷つける悪である。名将ハンニバルは多くの人徳と、過激な冷酷さを併せ持ち大軍を統率した。
(5)「運命は抵抗力がないところほど猛威を振るう」
この世のことは、たいてい運命に支配されているが、だからといって「宿命にすべてをゆだねる」態度で、人間の自由意志を奪われてはならない。運命が半分を思いのままに決めても、あとの半分は運命が我々の支配に任せているからだ。運命は抵抗力のないところに猛威を振るうから、「自らの意志」を発揮せよ。また、運命の女神が持つ「機会」を活かすには、荒々しい行動力が有効である。
(6)「民衆の気まぐれに頼るのではなく君主は自ら仕掛けよ」
愛情は相手の気まぐれに頼らなければいけないが、恐れられることは君主自らが仕掛けて能動的に行える。支配者は自らの立場を守るため、幸運に頼るのではなく、自ら仕掛けてその地位を強固にしなければならない。
(7)「平時にこそ、先を見据えて問題に備えよ」
天気のいい日に、嵐のことを想像しないのは人間共通の弱点だが、君主である者は、問題が起こる前にそれを考えておき、問題が小さなうちに素早く対処すべきである。病気と同じく、それと明確にわかるときにはすでに手遅れなのだから。
『君主論』は、「君主としての優れた演技」の必要性を強調しています。いい人になることが領民を傷つけ、国を失うことにつながるなら、むしろ「悪をうまく演ずる君主」のほうが領民は幸せだという理論です。
「状況こそが最善手を決める」「運命は抵抗力がないところほど猛威を振るう」などの指摘は、外交の最前線で体験した、世界の現実を反映した思想を強く認識させます。リーダーは常に、組織の外にある「生き残るための条件」に目を光らせるべきなのです。