孫子からクリステンセンまで、3000年に及ぶ古今東西の戦略エッセンスをまとめた書籍『戦略の教室』から、特に有名な10の戦略を紹介する連載。第2回は非情なリーダーシップを説く、マキアヴェリの『君主論』。強いリーダー不在の今こそ知っておきたい、いつの時代も変わらない人を動かす極意とは?
リーダーが身につけるべき「生き残るための条件」とは?
一国の外交を取り仕切る立場からすべてを失う
祖国を愛する偉才が、一国の外交官として、才能を存分に働かせていた日々から、突然すべてを奪われ、小さな山荘に閉じこもる生活を強いられたら……。
約500年前、諸国に派遣され、抜群の頭脳で祖国フィレンツェを戦火から守り続けた人物がいました。彼の名は、ニコロ・マキアヴェリ。『君主論』の著者です。
フィレンツェ共和国で内政・軍事を扱う第二書記局の長となったマキアヴェリは、小国である祖国の外交官として活躍します。しかし1512年、ドイツやスペインの連合軍により共和制は崩壊。彼は職を失い、街から追放されてしまいます。
外交の最前線から離れた彼が、経験と構想のすべてをまとめたのが『君主論』です。『君主論』は、権力の舞台に返り咲く武器にもなるとマキアヴェリは期待していました。そのため、当時フィレンツェで権力の座にいたメディチ家に向けた体裁をとっています。
『君主論』は欧州から世界に広がり、現代でも研究の対象となっています。「自らの集大成」はマキアヴェリの名を不滅のものにしたのです。
小さな国家は、リーダーに統率力がなければ生き残れない
目的のために手段を選ばないという意味で「マキアヴェリズム」という言葉が現代でも使われるほど、この人物の思想と『君主論』は広く浸透しています。その特徴は、ひとことで言えば「美化を排除した現実認識」にあります。
「人が現実に生きているのと、人間いかに生きるべきかというのとは、はなはだかけ離れている。だから、人間いかに生きるべきかを見て、現に人が生きている現実の姿を見逃す人間は、自立するどころか、破滅を思い知らされるのが落ちである」
「加害行為は、一気にやってしまわなくてはいけない。そうすることで、人にそれほど苦汁をなめさせなければ、それだけ人の恨みを買わずにすむ。これに引きかえ、恩恵は、よりよく人に味わってもらうように、小出しにやらなくてはいけない」(共に池田廉訳『新訳 君主論』より)
なんとも辛辣な言葉ですが、現実社会の一面の真実を暴いているようでもあります。マキアヴェリと『君主論』の論旨は、人も組織も、国家さえもタテマエでは動かない、ということです。理想論や単なる人情論ではなく、現実の中で役立つ指導力を発揮しなければ、厳しい世界でリーダーはとても自分の立場と組織を守れないのです。