「エネルギー自由化」後の近未来を考える連載。第2回は供給されるエネルギーそのものの「料金」を中心に見ましたが、今回はそのエネルギーを使って生産あるいは提供される商品やサービスにスポットを当てます。第1回が「エネルギーをマーケティング」だったのに対して、今回は私たちが考えるもう1つの新マーケティング発想「エネルギーでマーケティング」です。連載第3回となる今回は、「ユニークな出自を持ったエネルギー」から生まれる生活者の新たな体験をビジネスにする、についてご紹介します。

日常のエネルギーと
特別な日のエネルギー

 自由化により、さまざまな方式で作られたエネルギーを生活者が選択する社会が出現すると言っても、当の生活者が24時間365日、エネルギーのことばかり考えて暮らすわけではもちろんありません。本連載第2回で示したように、人々は自宅で消費する電力を、その由来を見た上で自由に選択します。

 火力や原子力による電力を何パーセントにして、風力や太陽光といった再生可能エネルギーを何パーセントにするかを、各々の価値観に沿って選び取っていく。そのような社会が実現するのですが、当の生活者にとっては「選び取る」場面は月に1回、あるいは年に1回程度に過ぎず、毎日毎日どのエネルギーを選択するか迷うような人はほとんどいないでしょう。

 たとえば1児の父親で奥さんと3人で暮らすビジネスマンのワタナベさん。毎日の通勤電車で、仕事をする会社のオフィスで、ランチの定食店で、訪問する得意先で、帰宅途中に寄るカラオケ店で、それぞれの場所で使われている電力がどこの由来によるものかをいちいち気にすることはありません。「電力を選べるようになった」ことを実感し、簡単に選択できることがあたりまえになったと言っても、日常生活で逐一、「いま使っている電力はどこから来たのか」を意識することはないのです。

 これは普段の生活の、毎日の食事に近いものがあります。

 たとえば夕食の食卓にのぼるトンカツについて、「豚の産地は?」「飼料に何を使っているんだ?」と逐一聞く人はあまりいないと思います。つくり手を信頼し、愛情のこもった料理に感謝の気持ちを覚えつつ、淡々と味わうだけです。

 もちろん、家族の健康と嗜好を考えて、「脂の塊の多い肉類は週末だけ」とか「朝は和食で」などの「我が家のルール」は一応あるでしょう。しかし、毎回の食事ごとに確認するケースは少ないと思います。