ドラギ総裁は“日本が陥ったデフレとは状況が違う”と繰り返しているが、この状態が続けば、中長期のインフレ率を左右する期待インフレ率が崩れ、まさしくデフレになってしまう恐れがある。すでに期待インフレ率も低下傾向があらわとなっており、「ECBももはや放置できなくなった」(田中理・第一生命経済研究所主任エコノミスト)格好だ。

 追加緩和の狙いとして、ユーロ高阻止・ユーロ安誘導を指摘する向きも多い。これも、輸出競争力の強化と共に、輸入物価を通じてインフレ率を上昇させるという意図が大きいと思われる。

 実際、追加緩和発表を受けてマーケットは動いた。ユーロは発表前の1ドル1.31ユーロから5日には1.29ユーロへと急落。対円でも、1ユーロ138円から136円へとユーロ安が進んだ。一方で、ドル高となったことから、ドル円は104円台から105円台へ円安方向に振れた。

 少なくとも当面、ユーロ高が進行するのを阻む効果は十分にあるだろう。ただし、現状よりさらにユーロ安が進むかと言えば、懐疑的な見方も多い。「材料出尽くしで、ユーロ安が進むのはかえって難しくなった可能性もある」(村田雅志・ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト)。

 追加緩和のもう一つの狙いが、金融機関の信用拡大、つまり貸し出しの促進だ。欧州危機以降、ECBは多大な資金を銀行に供給してきたが、それが企業に回っていないことを、ECBは問題視している。

 だからこそ6月の緩和で、「ターゲット型資金供給」(TLTRO)という策を打ち出した。これは簡単に言えば、貸し出しを増やすことを条件に銀行に低利で資金を供給するもので、6月に打ち出された緩和策の中核と目されていた。

 TLTROは9月18日に第1回が実施される予定であり、ECBはその効果を見極めるまで“様子見”姿勢を取る、という見方が主流だった。

 サプライズとなった利下げは、このTLTROを補完するためだと、ドラギ総裁は説明している。資金供給時の金利も下がって利用しやすくなるのに加え、“これ以上の利下げはない”と強調することで、銀行が“さらなる利下げ待ち”に走ることを防げるからだ。

 資産買い入れも、金融機関への資金供給と、バランスシート拡大が目的だ。購入規模はまだ不明だが、対象となる証券・債券の範囲を広げることで、従来市場が想定していたよりかなり大きくなりそうだ。TLTROと併せ、1兆ユーロ超となる可能性がある。