命を賭した仕事に比べ、
名声なんて実にくだらない
杉本 現実に、会社の9割以上が起業して10年で消えていくわけですからね。なかには会社を潰して、自らの命を絶ってしまう経営者さえいるわけで。遺族の方の気持ちを思うと本には書けなかったですが、私の周囲にもリーマンショックの影響で倒産して、自殺してしまった人もいましたし。
1973年生まれ。青山学院大学卒。1997年、株式会社インテリジェンス入社。1998年 株式会社サイバーエージェント設立、代表取締役社長に就任。『渋谷ではたらく社長の告白〈新装版〉』『起業家』(いずれも幻冬舎)ほか著書多数。
藤田 テイクアンドギヴ・ニーズの野尻さんも「もうダメかもしれない」と言っていたことがあったね。
杉本 ええ。ちょうどエスグラントの資金繰りがおかしくなり始めた頃なんですが、野尻さんと旅行に行ったことがあるんです。その時、「うちは苦しくてどうなるか分からない」と相談しました。でも、野尻さんも「いや、うちもやばいかも知れない」って、相談になりませんでした。
藤田 暗い旅行だな。絶対一緒に行きたくない(笑)。
杉本 ほかの社長も一緒の旅だったから、そんなに暗い顔はしてられなかったですけどね。調子よさそうな人の笑顔を眺めながら、スタッフさんにビールを持ってきてもらって二人で飲んでました。
藤田 そういえば、この本にはそういう起業家同士の付き合いが多く描かれているのも印象的だった。あまりなれ合ってしまうのはよくないけど、経営者同士だからこそ話し合えることもある。でも、そこでさらに、その状況を維持するために無理することもあるんだろうね。
杉本 上場前から名だたる経営者の方と知り合って、自分も同じ土俵にいなきゃいけないって錯覚していく感じはありましたね。
藤田 経営者は孤独だから、孤独に向き合った経営者同士にしかわからないことはあるかもしれない。起業家は命を賭けて取り組んでいる仕事なのに、名声や風聞に気をとられてしまうことほどくだらないことはない。
杉本 ええ、今なら身に滲みてそう思えます。