不屈の馬雲と
慧眼の孫正義

 大学で英語を学んだ創業者である馬雲(ジャック・マー)氏は、アリババで成功するまで40社以上の企業を興し、いずれも失敗したという。

 “中国版ユーチューブ”でたまたま約二十年前の動画を見たが、馬氏はある役所の役人に会いに行っていた。なぜか役人の反感を買い、ずいぶん怒鳴られた。馬氏は、ただただお辞儀をして謝罪していた。こんな屈辱的な扱いを、彼はおそらく役所だけでなく、失敗した四十数社のビジネスの中で多々経験したことだろう。

 しかし彼は、一度失敗しても、あっという間にまた他のビジネスを見つけて新しい事業を始めていた。卒業は杭州師範大学で、決して名門ではなく、金持ちの家庭に生まれたわけではない。しかも出身は浙江省という地方都市で、北京や上海、広州や深セン(センの字は土篇に川)などの都会でもない。

 1999年に馬雲ら18人の若者は、杭州のアパートでアリババを作り、Eコマースへ進撃することにした。IT技術に詳しくない代わりに、英語が読めた馬氏は、外国にはこのようなビジネスがあり、我々もやってみようと呼びかけた。インターネットはまだ中国に普及しておらず、しかもコミュニケーションについては厳しい制限を受けている中国で、本当にこの事業は継続できるか、多くの人が疑問に思っていた。

 転機は2000年ごろに訪れた。中国では投資家というイメージが強いソフトバンク社長の孫正義氏に出会ってからだ。

「20分の面談で、孫さんからどのぐらいの投資が必要かと聞かれて、20万ドルぐらいは必要だろうと馬さんは答えた。『200万ドルを投資する。頑張って』と言いながら、席から立ち上がった孫さんを見て、馬さんはしばらく耳を疑った」と、アリババをよく知っている中国の記者は筆者に言う。ほかのメディアでも似たようなエピソードをよく読む。

 筆者自身は、中国で何社か小さなIT企業を取材して、そこが孫氏から10万ドルの投資を受けていると聞いたことがある。20万ドルはたぶん孫氏の平均的な投資額の倍であり、本当に200万ドルの出資はあったのかと、少々、疑問に思っている。

 ただし、アリババへの投資はその後も継続したと思われる。今日、アリババの株を約3分の1保有している孫氏(正確にはソフトバンク)にとって、2000年から投資したといわれる200万ドル(約2億円)は、今となってはおおよそ1兆円の価値を持っているのではないか。

 日本企業の対中投資で、うまくいっていないケースはたくさんあると聞く中で、孫氏の成功もまた奇想天外なように見える。だが、孫氏には中国企業を見る慧眼があったということだろう。同様のケースが、今後もっと多く出ほしいものだ。