そこに現れたのが、阿里巴巴集団による「淘宝網(タオバオワン)(*4)」(2003~)でした。なんと馬雲は、数億元を投じてタオバオワン全体を「無料」とすることで、eBayから顧客を奪い始めました。登録料も出品料も取引手数料も、全部無料です。

 さらに2005年には、ペイパルと同じ仕組みであるネット決済サービス「支付宝(アリペイ)」を導入し、これまたタオバオワン利用時には無料で提供するとしました。つまり、eBayが収入源としているものをすべて無料にしたわけです。

 タオバオワンの中国人ユーザー向け施策(売買者間コミュニケーションのためのインスタントメッセージ機能、オフライン取引の促進)も当たりました。これらはいわゆる中抜きにつながるものであり、成約額に応じた取引手数料を収益源とするeBayにとってはいずれも採りづらい施策でした。

 eBayのシェアは下がり続けます。2006年、ついにeBayは実質的な撤退を余儀なくされました。

 ホイットマンはタオバオワンへの対抗上、「売買者間コミュニケーション促進のため」にSkypeを2005年に買収しましたが、それは彼女の辞任(08年)につながる大失策(*5)ともなりました。

C2Cを無料にしてB2Cで儲ける、
大フリーミアム・モデル創造

 翌2007年、タオバオワンのC2C市場シェアは84%、アリペイのそれは48%と圧倒的存在となりましたが、タオバオワン自体もその収益化には苦しみました。サービスの有料化を図る度(たび)に、中国人ユーザーたちは強く反発し、「出品者らによる広告費」のみがその収入源でした。

 しかし、そこから新たな市場が生まれました。楽天式のB2Cモールである天猫(Tモール)です。

タオバオワンで育った売り手が企業(ビジネス)となり、B2Cモールに出店し始めました。中国消費者もより高い信頼性を求めて、B2C EC(eコマース)を利用するようになりました。2008年に消費者向けEC全体の7%に過ぎなかったB2C市場は、前年比2.8倍で伸び続け、2012年には37%を占めるまでになりました。

阿里巴巴集団も天猫では通常の販売手数料や出店料をとったので、消費者向けの事業体であるタオバオ(=タオバオワン+天猫)としての収益は、急激に改善することとなりました。

アリペイは、タオバオワン向けには無料ですが、天猫や他のECサイトでは(取扱額の1%前後と安いが)有料です。B2C ECが伸びるにつれ人々は「もっともよく使うアリペイを他の支払にも使う」ようになり、これまた収益に貢献(*6)するようになりました。

 馬雲が中国で、試行錯誤の末につくり上げた巨大なフリーミアム戦略は、これまでのところ大いに成功していると言えるでしょう。

・対企業「アリババ」:B2B eマーケットプレイスで成約手数料(成功報酬)モデルでなく一部有料会員フリーミアム・モデル
・対個人「タオバオワン」「アリペイ」「天猫」:「C2Cと決済」を丸ごとタダにして「B2Cと決済」で儲ける大フリーミアム・モデル

*4 宝物を探す場所、という意味
*5 26億ドルを投資したが、次期CEOであるJohn Donahoeの下で売却が進められ、ほぼ投資額は取り戻した。
*6 中国でのB2Cの電子商取引額が5000億元、その50%がアリペイで決済されているとすると、手数料は25億元(約420億円)となる。(2013年推定)