人類がこれまでシャブをうまく使えたことはない
しかしこのITバブル、確かに崩壊したにもかかわらず、ずいぶんとひっそりした崩壊だった。この年は、話題が豊富だったというのもあるだろうな。21世紀のスタート、ジョージ・W・ブッシュ大統領の政権誕生、9.11の同時多発テロで世界貿易センタービルが大破、首謀者ビンラディンとテロ組織アルカイダ、そのアルカイダをかくまうアフガニスタンのタリバン政権討伐、日本で小泉内閣が大人気等々……。さすがにこれだけ話題に事欠かないと、ITバブル崩壊に注目が集まらないのもわかる。
でも、注目されない理由は、それだけじゃなかった。実はITバブル崩壊後、アメリカは日本みたいな深刻な不況には陥らなかったのだ。なぜか? それは不況対策・テロ対策でFRBが行った低金利政策がもとで、アメリカはカネがだぶつき、今度は不動産を中心としたバブルへと移行したのだ。
バブルに続くバブル──。もう呆れるべきか羨ましいのかわからん。でも何にせよ二種類のバブルを連続させたおかげで、アメリカは「クリントン→ブッシュ期の最後」まで、切れ目なく好況が続いているように見えたんだ。
でも、バブルは必ず弾ける。歴史上バブルは何度もあったが、弾けなかったバブルは一つもない。格言みたいだが、“カネ余りあるところバブルは起こり、期待感しぼむところバブルは弾ける”だ。
僕ら日本も経験したが、不況対策に不自然な低金利を継続させてバブルを誘発するパターンは、肉体的苦痛に耐えかねてシャブに手を出すようなものだ。効き目はバツグンだが、後には必ず地獄が待っている。
「麻薬もクスリの一種なんだから、うまく使えば問題ないでしょ」
政府や通貨当局はそう考えて、ある意味確信犯的に“バブルで不況脱出”を図ることもあるようだが、今まで人類が「うまく使えた」ためしはない。無理なんだよ。うまく使えていたら“弾ける”なんて表現、生まれないんだ。バブルをコントロールするなんて芸当、人類にはできない。「シャブを適量使えるヤツ」なんて聞いたことがない。そんな小器用なマネ、浅ましい欲望まみれの人類にはとうてい不可能だ。
どの国の政府筋も、一度はそれを夢見るらしい。だからアメリカも中国も、日本がのたうち回っている禁断症状をさんざん横目で見てきたくせに、「うちは同じ轍は踏まない」とか言いながら、同じ轍を踏みにいく。
シャブは破滅への片道切符だ。買うときにプッシャー(売人)が説明した薬としての効能は、全部ウソだ。日米中がそれぞれどんな神様に祈っても、ゴールは必ず同じ“地獄”だ。後に来るのが地獄とわかっているなら、せめて多少なりともマシな地獄にしたい。よく言われる“バブルからの軟着陸”、果たしてアメリカにやれるのか!?