40代の独身ニートに4000万円の住宅ローンを組めるか?
アメリカは、ITバブルと同時多発テロの後始末のため、2000年代前半から低金利政策を継続した。そしてそのせいで、今度は不動産でバブルが起こった。ここまでは、さっき見た通りだ。
その不動産バブルの目玉商品となったのが「サブプライム・ローン」だ。サブプライムとは、直訳すると“優良より下”、つまりこれは「低所得者向けの住宅ローン」という、今までにない画期的な住宅ローンだ。
ふつうありえんでしょ。だって低所得者を相手に、よりによって人生最高の高額商品を売るんだよ。例えば、親の年金をあてにしている40歳独身ニート男に4000万円の住宅ローンを組んでやる度胸、みなさんが銀行員ならありますか? ないでしょ。当たり前だ。こんなの度胸じゃない。“無謀”か“シャブによる錯乱”だ。
アメリカは今、政府がプッシャーとなって国民をシャブ漬けにしている最中だから、これもその過程で発生した錯乱か……と思いきや、そうではなかった。実はこのサブプライム・ローン、ちゃんといろいろ考えられていたのだ。
まずこのローン、貸すときの基本は「譲渡担保」だ。譲渡担保とは、バブルのところで南青山の億ションを転がす人がやってたやつ、つまり「今から買う10億円のマンションを担保にするから10億円貸してくれ」というやり方だ。
サブプライム・ローンでも同じ担保設定にしておく。そうすれば、低所得者が返済不能になっても家をぶん取ればすむだけだし、このローンで家を買う人が増えれば、ますます住宅価格が高騰して担保価値も上がっていくから、いいことだらけだ。
それから、「貸出金利」。低所得者は信用ならないから、将来的な返済不能に備えとかないといけない。そこで、ふだんから高金利で貸す。これならば早い段階で利益の回収ができるから安心だ。よしんばその高金利がアダとなって返済不可になっても、そのときは家をぶん捕りゃ大丈夫ってやつね。
でもやっぱり、低所得者は返済能力が不安だ。そこで念のため、住宅ローンそのものを小口債券化して、多くの投資家に買ってもらうことにした。これは例えば「4800万円+金利」という住宅ローンの返済受け取り権を、100人で分割所有するようなやり方だ。
そうすると一人当たりの受け取りは「48万円+金利」になる。これなら、受け取り額を独り占めして丸儲けはできない代わりに、一人で低所得者を相手にするリスクを避けることができる。
そして、その小口債券を、ファンド(投資信託会社)や証券会社、生命保険会社などが扱っている“高利回り商品が詰まった福袋”みたいな金融商品パッケージに混ぜてもらって、一般投資家に売ってもらえれば完成だ。これで、高利回りでリスク分散も完璧な人気商品の誕生だ。
こうしてサブプライム・ローンは、大人気の金融商品となった。おかげで住宅もどんどん売れ、住宅価格は上がり続けた。これで担保価値も万全だ。ところが、ここで誤算があった。住宅価格が上がりすぎたせいで、今度は逆に買い手が減り始めてしまったのだ。
考えてみれば、当たり前の話だ。だってさっきの年金依存型独身ニート40に、いきなり「1億円の家を買え」って言うようなもんだよ。100%ひるむぞ。無職無収入のニートが、そんな大それた買い物するもんか。
そして買い手が減ると、住宅価格も当然下がり始める。これはヤバい。譲渡担保の価値が、どんどん目減りしてしまう。しかもそれに加えて、先に貸し付けた低所得者たちが、案の定どんどん返済不能になっていった。だからやっぱり無理だったんだって。
バブルのときってこんなふうに“ないところに市場を掘り起こす”ことで金儲けのチャンスを広げようとしがちだけど、バブル脳の無根拠なポジティブさで市場拡大を図ったら、原野も一等地に見えちゃうって。冷静な人なら誰でも気づけることに、酔っぱらいだけが気づかない。当たり前だけど、低所得者に高い物を買わせるのは無理だ。
これは相当ヤバくなってきたぞ。今の状況を整理すると、「返済不能者から担保の家を取り上げても、住宅価格が下がっているから、売ると損失がどんどん出る」状態だ。これは投資家が不安になるね。
だって、せっかく買った楽しい福袋の中に、腐ったミカンが一つ入っているんだよ。こんな福袋を持っていると、金儲けどころか大損だ。だから投資家たちは、福袋をパッケージごと売った。そしてそのせいで……。
世界的な株安が発生した。なぜなら、サブプライムの小口債券がパッケージングされた金融商品には、株式や他の金融商品も入っていたからだ。つまり「パッケージごと大量に売る=株を大量に売る」にもなり、収拾がつかない株安へと波及したのだ。