先日、2013年のノーベル賞各賞の受賞者が発表されました。事前報道で有力候補者に複数挙げられつつも、今回日本人の受賞者はいませんでしたが、技術的に貢献した日本企業の株価が上向くなど、世界的権威を持つ同賞の影響力はビジネスの世界においても無視できません。
今回紹介するのは、今年のノーベル経済学賞受賞者が著した一冊。本書に書かれた警告が後に現実のものとなり、脚光を浴びる契機ともなった名著です。
ITバブル崩壊を事前に警告
世界的なベストセラーに
2001年1月刊行。赤の地色に白抜きの太文字が警告感を伝える装丁。タイトルのバックに配置されているのは、ブリューゲルの描いた『バベルの塔』です。
先ごろ今年のノーベル経済学賞の受賞者が発表され、イェール大学のロバート・シラー教授、シカゴ大学のユージン・ファーマ、ラース・ハンセン両教授の3氏が共同受賞しました。『投機バブル 根拠なき熱狂』はそのロバート・シラーが著した『Irrational Exuberance』(2000年3月刊)の邦訳書です。
1998年から99年にかけて、米国ではIT関連企業の創業や株式公開が相次ぎました。証券取引市場はいわゆるITバブルに沸き立ち、ニューヨーク証取市場のダウ平均株価は1999年から2000年にかけて異様なほど高騰しました。異変が起きたのは、原書が刊行された直後の2000年春のことでした。ハイテク銘柄が数多く上場しているナスダック証取市場の株価が急落したのです。そして同年秋にはインテルの株価下落をきっかけに他のハイテク株も急落。01年の年明け早々、米国ITバブル崩壊が明らかになりました。
説得力ある論理展開で「米国の株価は投機的なバブルである」と断じ、かねてより警鐘を鳴らしていたシラーに注目が集まるのは必然のことでした。主要メディアはこぞってこの”警告の書”を取り上げ、たちまち世界的ベストセラーに。邦訳版も絶妙のタイミングで、01年1月に発刊されました。
今日の株式市場に関する疑問を解決するため、筆者は幅広い(人によっては縁遠いと言うかもしれない)調査分野から、関連する情報を集めた。これらの分野から得られる洞察は、アナリストには気づかれずに終わる例が非常に多い。だが実は、過去の市場や世界の他市場で起きた今日と似たエピソードを定義するには、こうした分野がとても重要であることがわかった。たとえば、経済学、心理学、人口統計学、社会学、歴史学といった分野である。(iiページ)
米国の株価が投機的バブルを形成していることを実証するため、シラーは金融アナリストが用いていた従来の分析方法に加えて、こうした分野からの検討――具体的には、100年以上にも及ぶ歴史的な視点からの検証、心理学の成果、行動ファイナンスの理論を活用した多面的な角度からの分析などによって論証してみせたのです。