なぜバブルから世界恐慌になったのか? なぜ恐慌から第二次世界大戦へと向かったのか? そもそも不況時にバラマキ政策が行われるのはなぜか? 当時と今日の時代的な共通点が指摘されるなか、戦争へとつながる経済要因を、歴史の流れから読み解こう。代ゼミの人気No.1講師が面白くわかりやすく教える、教養としての「経済史」学びなおし講義。(初出:2014年10月23日)
さあ、ドイツからGNP20年分をむしり取れ!
前回(第2回)で見たように、世界に先んじた産業革命によってイギリスが世界の親分として君臨した「パックス・ブリタニカ」時代。イギリスは、アダム・スミスをはじめとする古典派経済学に後押しされるかたちで、自由放任経済を推し進めた。
しかし、世界の生産力が追いついてくると、ドイツ、フランス、ロシアなどの列強は新たな市場を求め“国盗りゲーム”が過熱する。その獲物は中国から次第にバルカン半島に移り、ついに第一次世界大戦へと突入した。
そして、1919年、第一次世界大戦の講和条約として、「ヴェルサイユ条約」が締結された。ここでの注目点は一つ。敗戦国ドイツがどこまでむしられるかだ。
この戦争は、史上初の世界大戦だ。27ヵ国も参戦している。しかも終盤ではドイツが潜水艦でイギリス付近を固め、近づく船を片っぱしから潜水艦攻撃するというムチャまでやった。もう欧米列強はカンカンだ。
だからドイツは、戦後賠償としてはギネス級にひどい目にあった。そのひどさは、もはやブルガリアの比ではない。あっちが丸裸なら、こちらは臓器や骨髄、血液から毛髪に至るまで、列強にすべてバラバラにされたあげく、根こそぎ持っていかれた。もはやイジメなんてレベルではない。猟奇殺人だ。
ドイツはこの条約で、海外の領土と植民地をすべて奪われた上、軍隊は破壊的レベルでの縮小、徴兵制の廃止、武器弾薬の保有は砲弾数や銃の種類まで指定しての制限、毒ガス・戦車・潜水艦などは研究すら禁止、そして極めつけは、なんと1320億金マルク(金本位制下でのマルク紙幣)もの賠償金だ。
1320億金マルク!! 当時のドイツのGNP20年分だよ! いくら戦争賠償金の目的が“国力を削ぐこと”とはいっても、これは削ぎすぎ。もはや土に還るレベルだ。よく「鮭は捨てるところがない」なんて言うけど、ドイツが分割された後は、その鮭以上に捨てるところがない。
そしてドイツは、その賠償金の支払いに案の定、困ることになる。ドイツは最初、「こんな冗談みたいな巨額の賠償金、ムリです」と支払いを渋ったが、渋るや否やあっという間にフランスからルール地方を占領された。
これって闇金に拉致られたとき、半笑いで払えないって答えたら、その瞬間生ヅメを2枚ベリベリッと剥がされたようなもんだ。ヤベェ、こいつら本気だ。次は埋められる……。フランスも第一次世界大戦で国土が荒廃し、焦っていたのだ。これはもう払うしかない。
でも、いざ払うとなっても、当然そんなふざけた額のマルク紙幣は存在しない。そこで仕方なくマルク紙幣を膨大に増刷し、その後とてつもないハイパーインフレに苦しめられ続けることになる。
今ハイパーインフレと言ったが、どれくらい凄まじいインフレだったのか? その頃ドイツは、マルク紙幣を発行しすぎて価値がどんどん暴落し、ついに為替レートは驚きの「1ドル=4兆2000億マルク」にまで達していた。
4兆2000億マルク!! それ絶対財布に入んないわ。コーラ1本買う程度の金が財布に入んないって、どういうこと? それたぶん、荷物多めの独り暮らしの引っ越し用トラックぐらいないと運べないぞ。
そこで、どんどん高額のマルク紙幣・貨幣を発行せざるをえなくなり、ついには幻の1兆マルク銀貨、100兆マルク紙幣なども登場するほどになった。
僕も以前、魔が差して有楽町のコインショップでその1兆マルク銀貨を買ったが、そのとき店主に「これって当時、どれくらいの価値だったんですかね?」と聞いたら、「さあ、80円分ぐらいは買い物できたらしいですよ」と言われたのを今でも覚えている。
でも、さすがにここまで法外な賠償金は、やりすぎだ。しかもルール地方の占領って、ドイツ一の工業地域を取り上げちゃ金の稼ぎようがない。ドイツを破綻させたいんならともかく、搾取したいんなら「生かさぬよう、殺さぬよう」だろ?
おい列強、お前ら封建制出身なら、絶対“わが国の家康公”みたいなやつがいるだろ? そういうやつからいっぺん、真綿で首を締めるような理想的な搾取レクチャーでも受けてこい。さもなくば「慶安の御触書」でも読んどけ。こういうムチャな追い込み方をしたら、そのうち必ず一揆(ヒトラーの出現)が起きるぞ。