青色発光ダイオード(LED)の発明と製品化で、日本人3人の受賞が決まった今年のノーベル物理学賞。本誌では2001年6月、受賞者の1人で米国に渡っていた中村修二・カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授に肉迫する連載企画を4回に分けてお届けした。経済ジャーナリスト岸宣仁氏の手によるもので、タイトルは「知られざる日本の“異脳”たち」。ここでは、同時受賞した赤崎勇・名城大学終身教授のインタビューなども盛り込まれた3回目(2001年6月23日号)を掲載する。1回目はこちら、2回目はこちら

中村修二・カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)教授を一躍有名にしたのは、世界初の高輝度青色発光ダイオード(LED)の開発だった。今回は、この画期的な発明に至る道程を検証しよう。

 サンタバーバラの市街をクルマで走ると、至るところで信号機の鮮やかな青色が目に飛び込んでくる。これまでの薄暗い青に比べて、明るく澄んだ青色である。太陽の光が反射しても、見えにくくなることがない。

「これが、青色LEDを使った信号機ですよ。見やすいでしょ」

 交差点でクルマを止め、わざわざクルマから降りて説明を始めた中村修二教授の横顔は、心なしか得意げに見えた。自らが実用化にこぎ着けた青色LEDが、こうして世界の信号機に採用され始めたことが、職人気質の研究者としてはなによりもうれしいのだろう。

 LEDのメリットは多い。電球を使った従来の信号機は、球切れすると電球を取り換えなければならないが、LEDは一度設置するとメンテナンスの必要もなく半永久的に使うことができる。加えて、消費電力は電球型に比べてほぼ一〇分の一ですみ、「省エネ」の点からも格段に優れている。

 現在カリフォルニア州は信号を電球からLEDに急ピッチで切り換えつつある。電力危機がいっそう深刻化しているためで、州の法律を改正し、LEDに換えるだけでなく、電源には太陽電池を利用するよう促している。

「日本は警察官僚の天下り先が電球型信号機の“利権”を押さえているので、開発国でありながらLEDがなかなか普及しない。その点、市場メカニズムが機能するこちらはやることが本当に早い。官僚機構が独占する利権構造にメスを入れない限り、日本はあらゆる面で後れをとるばかりですよ」

 と、中村はここでも日本型システムの批判をひとしきり語った。