「今のところ、メタボ解消目的の会員が増えるトレンドは見られない」
ある中堅フィットネスクラブの関係者は、溜息をつく。
2008年度から、企業の健康保険組合に加入する40~74歳の人を対象に、「特定健診および特定保健指導」(メタボ健診)が義務付けられた。それにより健保組合は、メタボ(メタボリック・シンドローム)の該当者や予備軍に、指導を行なわなければならなくなった。
さらに2013年度からは、加入者のメタボ率が高かったり、健診の受診率が悪い健保組合に対して、“事実上の罰金”(後期高齢者医療制度への負担金が増加)が課せられる予定だ。もし目標を達成できなければ、財政の悪化は避けられない。メタボ対策は「待ったなし」の状況なのである。
そのためこの関係者は、「当初、メタボ解消のニーズが拡大し、フィットネス会員が増えることを期待していた」という。
ところが現状では、思ったほど会員数は伸びていない。関係者の落胆は小さくないようだ。
「大手業者は、ペナルティが実施されるまで本格的な会員増は期待できないと冷静に考えている。だが大手と違い、会員の出入りが激しい中小に、ブームの到来を待つ余裕はない」(関係者)
彼らがお客の獲得にこれほど躍起になっている背景には、実は無理からぬ事情がある。「ここ数年間、フィットネス業界全体はかつてない苦境に立たされている」(古屋武範・クラブビジネスジャパン代表取締役)からだ。
苦境の最大の要因は、市場全体が熾烈な過当競争に陥っていることである。1980年代後半から急拡大を始めた民間のフィットネスクラブ産業は、今や市場規模4000億円、店舗数2000店、個人会員数350万人へと成長した。
この業界の特徴は、短期間に何度も再編淘汰を繰り返しながら、大手資本による寡占化が進んだことだ。不動産、建設、ガス、電力など、ありとあらゆる業態の企業が、遊休地の有効活用や企業イメージのアップを狙って、続々と参入を続けた。
現在は、市場シェアの半分以上を、最大手グループの4~5社で占めている。コナミスポーツ&ライフ(「エグザス」を運営していたピープルをコナミが買収)、セントラルスポーツ、ルネサンス(大日本インキ工業系)、ティップネス(サントリー系)、メガロス(野村不動産系)など、そのほとんどが大手を母体として発足した企業だ。