高橋工芸はもともと、家具の脚(飾り柱)などを手がけていた。やがて、家具の需要の低迷に伴ない、1980年台からカップやシュガーポットなどの制作をはじめる。大きな転機となったのは紙のガラスのように薄い木製品Kami Glassを発表したことだ。

「あるバイヤーさんからそんな商品があったら面白いよね、というご意見をいただいて。やらないでできないというのは嫌なのでとりあえずやってみよう、と」

 代表取締役社長の高橋秀寿さんはいかにも職人肌という印象の方だ。

外国人を“アート”“魔法”だと驚かせた<br />紙のように薄い「木のコップ」を生み出す日本の職人高橋工芸、代表の高橋秀寿さん。2009年に会社を継いだ。デザイナーとの協同でも知られるがそのメリットは「職人はどうしてもつくりやすい形に落ち着くことがある。彼らはそういうところではないところからアイディアをくれるというメリットがある」と語る

「シンプルな形なので、白い木のほうがいいだろう、と。なおかつ北海道の木を探して、センの木を選んだ。というよりも旭川は家具の街なので、食器用の材料として売られているわけじゃないんですよ。だから、自分で丸太から仕入れて、製材工場に持ち込んで、というところからはじめなければいけない」

 技術的に難しいのは木を彫るところだという。高橋さんは1年近くをかけ、専用の刃物から開発していった。さらに薄くすることもできなくはないそうだが、強度との兼ね合いなども考慮され、現在の薄さに決まった。

 紙のように薄いKami Glass、意外なことに当初の反応は芳しくなかったと言う。

「父はいわゆる工芸品を観光土産として販売していました。kami Glassはそれまでつくっていた製品とはまったく違うので、販路も新しくつくらなければならなかった。展示会などに出してみましたが、はじめのうちは反応はまったくゼロでした。というのも見たことがない商品なので、皆さん薄さと軽さに不安を感じられているようでした。なかなか前例のないものに手を出すということはしづらいですし」

──転機となったのは?

「展示会を続けて、見せ方を変えたりして、少しずつという感じです。バイヤーさんに少しずつ理解してもらって。それである方に(デザイナーでD&DEPARTMENT代表の)ナガオカケンメイさんを紹介していただいて、松屋銀座で開かれていたデザイン物産ニッポンに出店してみないか、と」

 百貨店での催事の初日、実演を見た人は驚いた。

「旭川はそれほどでもないんですけど、全国的に木地師(ろくろを使って木工品を加工する職人)という仕事は衰退傾向にあって、後継者もいないので、年配の方々は驚いたみたい。この場所でろくろの実演をやってくれるなんて、と感動してくださって」