日本には数多の組織があり、多くの人がその中に属している。しかし、組織はある目的のために集まった人たちで成り立っているにもかかわらず、一度“病”にかかれば、本来の目的を見失い、再起不能の状態へと陥る。しかも怖いのが、組織の中の当人たちは、“病”の正体が分からないどころか、自分たちが“病”にかかっていることすら気づけないことだ。

この連載では、日本の組織の成長を阻害している「組織の病気」について症例を挙げて紹介。経営とリスクマネジメントの観点から数多くの企業を見てきた筆者プリンシプル・コンサルティング・グループ代表取締役の秋山進さんが考える治療法も提示する。

自分の担当範囲しかわからない人の集合体に
良い仕事ができるのか?

 ある日、「(私のクライアントである)X社にメリットのある提案をしたい」と、大手コンピュータ会社であるA社の営業部長が連絡してきた。X社と調整してお受けしたところ、「失礼します」と言って会議室に入ってきたのは、なんと10人。「あぁ、この会社もずらずら病か」と私は軽く失望する。コンピュータ会社に限らず、ずらずら大人数でやって来るところにロクな会社はないからだ。

 もちろん、ただ“人数が多い”ということを問題視しているわけではない。その一人ひとりにこの会議に参加する上での明確な役割と必然性があればいいし、これから一緒に仕事を始める“キックオフ”のような場であれば何の問題もない。しかし、そのどちらにも当てはまらない場合、こういう会社と仕事をすると大抵発注側が苦労させられる。その理由を説明しよう。

 まず、大人数で客先に出向くことになる理由にこそ、大きな問題がある。それなりに大きな案件の場合、一部署だけで業務が完結することはなく、各部署が連携して作業を進めることになる。A社の場合は、関係しそうなすべての部署から代表者が一名ずつ集結した結果、“ずらずら”やって来ることになったのだ(営業は複数名参加していた)。

 本来ならこの段階での参加者は、X社の状況の予測をもとにソリューションの方向性を提案し、社内をコーディネートする営業担当者、目標達成にむけての必要な工程や技術の全体像を描くプロジェクトマネジャー、基幹技術の担当者くらいの3人程度で十分ではないだろうか。もちろん、話が進めば、各部署を巻き込んで細部を詰める必要はあるだろうが、最初の段階でそこまで細かい話をすることはほとんどない。誰かが責任をもって「詳細は後日回答しますが、基本的には○○の方法を使って十分可能です」などと受け答えができれば十分だ。