11月18日に安倍首相が消費再増税の先送りと衆議院の解散・総選挙を表明してから、世の関心は一気にそちらに移ったようにも見える。だが、その2日前に行なわれた沖縄知事選では、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する新知事が誕生した。今回の総選挙は、アベノミクスという経済政策ばかりでなく、沖縄の民意にどう応じるのか、安倍政権が考える民主主義もまた問われてしかるべきである。
「イデオロギーよりアイデンティティー」の勝利
11月16日投開票の沖縄県知事選挙で、前那覇市長の翁長雄志(おなが・たけし)氏(64)が36万820票を獲得し、初当選を果たした。政府の推進する米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設が最大の争点で、移設に反対する翁長氏が政府の全面支援を受けた現職の仲井真弘多(なかいま・ひろかず)氏(75)=自民、次世代推薦=を9万9744票という大差で破った。
4人が立候補する中で、翁長氏の得票率は50%を超えた。1月の名護市長選挙で移設に断固反対を続ける稲嶺進氏が再選を果たしている。移設先の名護市長と知事の2人が、選挙で鮮明に反対を打ち出し、「辺野古ノー」の民意を得たことになる。それでも菅義偉(すが・よしひで)官房長官は翌17日の記者会見で「辺野古移設を粛々と進めたい」と意に介さない態度をとった。なぜだろうか?
選挙を振り返ってみる。
元郵政民営化担当相の下地幹郎氏(53)、元参院議員の喜納昌吉氏(66)と、翁長氏の新人3氏が、現職の仲井真氏に挑んだ。事実上、翁長氏と仲井真氏の一騎打ちとなった。
仲井真氏の失点が翁長氏の圧勝を生み出したことは間違いない。
民主党政権下で実施された4年前の知事選で、仲井真氏は普天間の「県外移設」を掲げて2期目の当選を果たした。その後も「辺野古移設は事実上困難」「普天間の危険性除去には県外へ移した方が早い」などと県内移設を「否定」する発言を続けてきた。
ところが昨年3月に沖縄防衛局が公有水面埋立法に基づく辺野古沿岸の埋め立て承認申請書を県に提出した頃から変化が訪れる。仲井真氏は昨年8月に菅官房長官と名護市内のホテルで密談。その後の展開を、県内では「菅官房長官が描いたシナリオを仲井真氏が演じた」と言われた。