創造とは常識からの飛躍

 デビュー盤に収録された“紫のけむり”は、2分50秒の短い曲ですが、この曲はロックミュージックが生まれながらに内包している無限の可能性を解き放ちました。

 ここには、ジミ・ヘンドリックスの創造力の爆発があります。

 まず、イントロの和音が強烈です。EとA♯の二つの音が重なるだけで妖しい雰囲気が生まれます。3小節から登場するB→D→G→Aのフレーズが脳天を直撃。1オクターブの中から選ばれたシ・レ・ソ・ラの4つの音だけで世界の色調が変わってしまいます。

 そして、12小節のイントロから歌部分に突入。そこで響いている和音がまた特別です。ホ長調とホ短調が一緒に鳴っている不思議。敢えてコード名をつければ、E9♯です。構成音はE・G♯・D・G。一度聴いたら決して忘れられない鋭角的な不思議な響きです。ここには、ロックミュージックをフォークやカントリーと決定的に分かつ音楽的エッセンスが存在しています。その正体は、如何なる前衛と革新をも許容する自由です。

 歌詞もまた時代を如実に反映しています。時代はサイケデリック。良し悪しは別として、芸術の世界にドラッグ文化が広がっていました。

 紫のけむりが俺の脳に充満してる、物事が違って見えてしまう、ヘンなこともやらかしてしまう、

 でも、何故だか分かんない、ごめんね、でも空にキスしちゃう。

 紫のけむりが俺の眼の中に入ってる、今が昼か夜かも分かんない、アンタは俺の心を掻き乱す、

 ところで、今は、明日になってしまったのかい? それとも、時間の果てにいるのかい? 

 この歌詞は、非常に直裁な中に、文学的な閃きを感じさせます。空にキスをする、なんて素敵な表現です。今が明日なのか時間の果てなのか、というフレーズには時空を越える視点があって、エレキギターのサウンドと合わさって、聴く者をここより他の場所に連れていってしまいそうです。

 では、こんな曲はどうやってできたのでしょうか?

創造の瞬間

 何事につけ、無から有ができる瞬間に一体何が起こっているのかは興味の尽きぬ謎です。“紫のけむり”を生み出したのは、ジミ・ヘンドリックスの脳です。頭の中の創造中枢で何かがスパークして、あのフレーズと歌詞が閃いたのです。関係者の証言により、何時生まれたのかについては分かってきました。