11月16日の沖縄県知事選挙で、米海兵隊普天間飛行場の辺野古移設に反対する翁長雄志氏が当選した。これで県知事も地元名護市の市長も移設反対派が占めることになった。この結果を受けても、政府は「粛々と」計画を進めるとしているが、その理由は辺野古移設が「抑止力として必要」というものだ。だが、沖縄に配備されている米軍海兵隊の役割をつぶさに検証すれば、抑止力論が偽りであることがわかる。

知事も市長も移設反対派に

 11月16日の沖縄県知事選挙では、米海兵隊普天間飛行場の閉鎖、撤去と県内移設断念を求める前那覇市長・翁長雄志(オナガ・タケシ)氏が、現職の仲井真弘多(ナカイマ・ヒロカズ)知事に投票総数の14%余に当る10万票近い大差を付けて当選し、翁長氏は仲井真氏が2013年12月27日に行った辺野古沿岸の埋め立て許可の撤回を含む、あらゆる手段を駆使して、新しい基地建設に反対する意向を表明した。

 仲井真氏は2006年、自民、公明の支持を受けて知事選挙で当選し、当初は辺野古への移設を容認していたが、民主党政権下の2010年の知事選挙では「基地の県外移設」を公約として再選された。だが2013年12月に安倍政権が申請した埋め立てを許可したため、2014年1月10日には県議会が知事不信任案を4分の3の賛成で可決していた。2度にわたる仲井真氏の変節は沖縄県の置かれた苦しい立場を示すものであったとはいえ、安倍首相が12月25日に提示した3460億円の沖縄振興予算は「有史以来の予算、これはいい正月になる」(実は98年度の4713億円など、これより多かったことが多い)と仲井真氏が大喜びしたのは、札束で頬を張られて変心したような形に見え、県民が反感を抱いたのも無理はなかった。

 政府は「一度県知事が承認したことを、後任者が撤回することはできない」として、海底地盤のボーリング調査などを「粛々と」進める計画だが、今年1月19日には地元の名護市でも移設反対派の稲嶺進(イナミネ・ススム)市長が大差で再選され、漁港内に設ける埋め立て作業用敷地を貸さない、などの抵抗が市長の権限で可能で、さらにこれに知事が加わると難航は必至の形勢だ。移設には設計に1年、埋め立てなどの建設に5年、施設整備に3年など、計9年半を要するとされ、総経費は1兆円を超えると見られる。

 現在、第36海兵航空群が駐留している宜野湾市の普天間飛行場は2700mの滑走路を持ち、MV22B(オスプレイ)24機、大型輸送ヘリコプターCH53Eが4機、攻撃ヘリAH1Wが5機、指揮・連絡用ヘリUH1Nが4機、連絡機UC35(サイテ―ション)3機、同UC12(スーパーキングエア)1機が配備されている模様だ。那覇から約10キロ程の近さだけに、飛行場の周囲は住宅地として発展し、騒音への苦情が多く、2004年8月13日には大型ヘリCH53Dが隣接する沖縄国際大学構内に墜落、炎上した。夏休み中だったため民間人に死傷者は出なかったが、搭乗員3名が負傷した。また宜野湾市が基地により東西に分断されているため、消防、救急活動などに支障があるという。

 基地を辺野古に移せば、事故が民家に与える危険と騒音問題が著しく減少することは確かだが、米軍による占領、強引な用地収用、米軍人による犯罪などに70年近く苦しみ、屈辱感を抱いてきた沖縄県民の多数が、新たな基地建設に反発するのも当然の心境だ。1996年4月に橋本龍太郎首相とW・モンデール駐日米国大使が普天間移設で合意して以来すでに18年余。紆余曲折を繰り返しいまだに着工もできず、政府のノドに刺さった骨のようになっていることは、本来これが無理筋の案だったことを示していると言えよう。その間、日本の財政状況は悪化し、政府の総債務残高は1197兆円、政府の持つ金融資産を差し引いた純債務でも673兆円(GDPの約138%)に達した。この財政危機の中、地元民の大半が反対する基地建設に莫大な資金を投じることが合理的政策なのか疑わしい。