
台湾への武力侵攻をちらつかせる中国は、世界の平和と安定にとって最大級のリスクだ。そんな国家にサプライチェーンの多くを依存している日本経済は、脆弱(ぜいじゃく)そのもの。経済安全保障の観点からは是正が急務だが、独裁国家に一度進出した企業が撤退するには、莫大な犠牲がともなう。この現実をどう乗り越えるべきか。※本稿は、羽生田慶介『ビジネスと地政学・経済安全保障』(日経BP)の一部を抜粋・編集したものです。
ガザ情勢の飛び火で
紅海が通航不能に
地政学・経済安保リスクといえば、サプライチェーンの混乱が最初に思い浮かぶだろう。1973年に第4次中東戦争(編集部注/イスラエルとエジプト・シリアをはじめとするアラブ諸国との間で勃発した戦争)を契機に生じた石油危機は、その典型例だ。ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザでの武力衝突などの中東情勢の悪化を見て、エネルギー供給が不安定化することを懸念した人も多いだろう。
実際、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻後には、西側諸国による対ロ制裁の影響もあり、石油や天然ガスの価格は一時大きく上昇した。また、ロシアやウクライナが主要供給国であるネオン(半導体製造用ガス)やパラジウム(自動車排ガス触媒、半導体メッキ)などの調達に支障が出ることが懸念された。住友電気工業などは、ウクライナでのワイヤハーネス生産を停止し、輸出も途絶えた。それによって、欧州での自動車生産が減産や停止に追い込まれた。