安倍首相は、衆議院の解散・総選挙に踏み出した。消費税増税延期については、与野党ともにほぼ異論がない中、解散の大義は何か。実際には集団的自衛権・憲法改正・原発再稼働なども争点になるはずのところ、それに焦点を当てさせない戦術なのか、首相は「アベノミクス解散」と称し、これまでの経済政策の可否を問うとしている。そのことの是非はともかくとして、今回の総選挙では、アベノミクスの何が争点になるのだろうか。

第一の矢は未踏の領域へ
次第に高まる副作用

 アベノミクスの第一の矢である「大胆な金融政策」は、10月31日に黒田日銀が市場に驚きを与える追加金融緩和を行なったことによって、まさに未踏の領域に入ってきた。市場は株価の上昇と円相場の下落というかたちで大きく反応している。

 ところで、そもそも大胆な金融緩和というのは何を企図したものなのだろうか。それは、インフレ目標実現に向けての日銀の強いコミットメントをもって人々の「期待」に働きかけることによって、期待インフレ率を上昇せしめ、かつ、国債の大量購入によって市場金利を低位に安定させ、実質金利(名目金利-期待インフレ率)をマイナスにすることで、民間の資金需要を喚起しようというものだ。

 一方、金融緩和で実際には何が起きるのだろうか。それは、日銀が銀行から大量の国債を買い上げ日銀当座預金にマネーを振り込むために、「マネタリーベース」が膨張することだ。期待されているのは、マネタリーベースが膨張すれば、民間主体が保有する預金である「マネーストック」も増えるので、民間の経済活動を刺激する、ということだ。

 しかし、近年、マネタリーベースとマネーストックの連動性を疑う声も多い。すなわち、マネタリーベースがいくら増えても、それは銀行が日銀に預けているお金(日銀預け金)が増えるだけで、ただちに民間活動に使われるわけではなく、マネタリーベースとは関係なく、民間活動が活発になれば、その「結果」としてマネーストックの上昇に繋がるという意見も根強い。

 黒田総裁の前任の白川氏は、どちらかと言えばその考え方に近かったのではないかと思われる。黒田総裁の異次元金融緩和は、先述のようにマネタリーベースを増やすことで「インフレ期待」が浸透し、民間の需要が喚起されてマネーストックが増えることに賭けるものと言って良い。しかし、民間の需要は規制緩和など民間活力を引き出す「第三の矢」があって初めて引き出されるものであって、単なるインフレ期待だけで増えるものだろうか。

 また、日銀が大規模な金融緩和を行ない、自国通貨である円の価値を毀損させる意図を陰に陽に明らかにしている状況が続くと、円の信認は失われる。「通貨の番人」であるはずの中央銀行が、わざわざ自国通貨の信認を毀損させようというのだから、市場は安心して円を売れるので、恐らく今後もどんどん円安が進むであろう。それは、想定を超えた円安と、それを通じたハイパーインフレーションの危険さえもはらむものと言って良かろう。