石坂整理・整頓・清掃の3Sを徹底させました。私は毎日、「人育ては時間がかかるもの」と自分に言い聞かせながら、現場を歩き、「巡回指導報告書」を書きました。これは、現場を巡回して3Sが徹底されているか、挨拶はきちんとできているかなどを書き入れるもので、日報とは別につくりました。これは現在も続いていて、「巡回指導報告書」のチェックは、私が社長になってからの12年間、1日も休んでいません 。「会社をもっとよくするんだ。永続企業にするんだ」という想いだけが私を突き動かしていました。こうして社長就任から8年がすぎた頃、社員の意識が変化してきたのがわかりました。「石の上にも3年」と言いますが、当社の場合、“石の上にも8年”でした。

高野 しかし、かつての状況が想像できないほど、社員の方たちは大きく変わりましたね。御社を何度も訪問して感じるのは、社員のみなさんがいい意味でプライドを持っていることです。案内係の人と話をしていてもそれを感じますし、作業をしている人たちも見学者に作業を止めて挨拶してくれます。この前、若手社員の方と話をしたら、「大学で環境を学んで、それをいちばん活かせるのが石坂産業だから入社した」とキッパリ言っていました。

石坂 うれしいことです。

高野 これは石坂社長の哲学が浸透したこと、外部に「見せる経営」をしたことが大きいと思います。人間は誰かに感謝されて変わります。見学通路をつくったり、里山公園を地域の人に開放したりと、それが日常的にできるステージをつくった。これが大きいのでしょうね。

石坂外部の方から評価されて社員は大きく変わりました。全国津々浦々からいらっしゃる経営者の方、環境学習に訪れる子どもたちや先生がアンケートを書いてくださいます。そこにおほめの言葉が書いてあると、社員はとても喜んで、「もっとなんとかしよう」と自分たちで考えるようになります。

高野 そこもリッツ・カールトンとよく似ていますね。いろいろな人がやってきて、感謝されることが社員の方たちの快感なのだと思います。それが「もっとよくしよう」「いま以上の価値を生み出そう」という気持ちにつながっているのでしょう。先日もバーベキューで御社にお邪魔しましたが、この1年のうちに何度か訪問して、社員の方の感受性がどんどん豊かになっているのを感じます。その結果、里山再生もどんどん進んでいるし、そこにできる施設も工夫を凝らしたものになっています。