鳩山首相が国連演説で打ち出した温室効果ガス削減目標に、日本の鉄鋼業界は猛反発している。
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「国連演説で鳩山さんに送られたのは賛美の拍手ではない。各国代表は“これで日本の競争力がなくなる”と喜んだのだ」
ある鉄鋼メーカー首脳はそう言って怒りをぶちまける。
鳩山由紀夫首相が国連演説で打ち出したCO2など温室効果ガスの削減目標(1990年比で2020年までに25%削減)が、鉄鋼業界を揺るがしている。すでに日本の鉄鋼メーカーは、京都議定書の目標達成(1990年比で2012年までに6%削減)のために、合計5600万トン(1100億~2200億円)もの排出権購入を迫られている。25%削減となれば、新たな負担が生じる可能性はきわめて高い。
「排出制限がかかるぶんについて、粗鋼生産1トン当たりの排出権コストは3500~7000円。一方、経常利益は6400円。これだけで収支ゼロだ。このままでは日本で鉄鋼生産などできなくなる」と山田健司・新日本製鐵環境部長は憂慮する。
あるシンクタンクの試算によれば、25%削減目標を達成するためには、日本の鉄鋼生産量を年間9700万トンにまで減らさなければならない。現在、日本の粗鋼生産能力は約1億2000万トン。差し引き2000万トン強の生産調整が必要となる。
皮肉なことだが、世界同時不況の影響で国内粗鋼生産は1億トンの大台を割り込む見通しだ。つまり、現在の生産水準がずっと続けば、25%削減目標は達成できる。しかし、そのためには2000万トンもの設備廃棄を余儀なくされるし、海外生産移転による空洞化も覚悟せねばならない。
ちなみに、新日鉄の今期経常損益予想は約200億円、JFEホールディングスは約400億円。中長期的なコストダウン、海外生産の増加はあるにせよ、現在の国内生産水準の維持を前提にすれば、大手各社の業績も超低空飛行が続くことになる。