かつて人前で話す力を必要としたのは、ある種特別な立場にいる一部の人に限られていた。しかし、ネット配信により、一般人でも人前で話す機会は激増。一瞬にして全世界に自分の想いを伝えられるチャンスが到来した現在、話し方をマスターすれば、全世界に自分の想いの「共感の輪」を広げられる。
そのために、いますぐ準備しておくべきことは何か?
発売たちまちベストセラーとなった『ストーリー思考』著者の神田昌典氏と、『【NHK式+心理学】一分で一生の信頼を勝ち取る法』の矢野香氏の対談後篇。いよいよ核心に入った。
(構成・鈴木雅光)

言葉の重みが収入を変える時代
――短いセンテンスで伝える訓練を

【第14回】<br />年収を増やしたかったら、<br />MBAより「話し方」を学びなさい。<br />神田昌典×矢野香対談【後篇】神田昌典(かんだ・まさのり)
経営コンサルタント、「フューチャーマッピング」開発者。日本最大級の読書会『リード・フォー・アクション』主宰。 上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。 大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済局に勤務。 戦略コンサルティング会社、米国家電メーカー日本代表を経て、1998年、経営コンサルタントとして独立。 多数の成功企業やベストセラー作家を育成。 ビジネス書、小説、翻訳書の執筆に加え、教育界でも精力的な活動を行っており、公益財団法人・日本生涯教育協議会の理事を務める。 おもな著書に『60分間・企業ダントツ化プロジェクト』『全脳思考』(ダイヤモンド社)、『2022――これから10年、活躍できる人の条件』(PHP新書)、『成功者の告白』『人生の旋律』(講談社)、『非常識な成功法則』『不変のマーケティング』(フォレスト出版)、翻訳書に『マインドマップ for Kids 勉強が楽しくなるノート術』(ダイヤモンド社)、『あなたもいままでの10倍速く本が読める』(フォレスト出版)等、累計出版部数は200万部を超える。

神田 昔は、自分の想いを文字で伝えたものですが、スマートフォンが普及すると、あの小さな画面では長文を追うことが難しくなります。結果、映像の力に頼らざるをえなくなりました。ただ、映像は1~3分がせいぜいですから、その時間を飽きさせずに自分の想いを伝えることが必要になります。

矢野 そうですね。映像を使って自分の意見を伝えている方が増えています。しかし、実際には、その映像は、本当にきちんと最後まで見てもらえているのでしょうか? 冒頭だけ見て、途中でやめてしまうケースも多いはずです。我慢して見続けていると、最後のほうですごくいいことを言うのに誰もそこまで見てくれない。これはすごくもったいないことですよね。

神田 だから、僕はいま、言葉の密度をどうやったら高められるかということにチャレンジしています。一つの言葉で、どれだけ多くのメッセージを伝えることができるか。それを試行錯誤するのがとっても楽しいのです。

矢野 どうやって、そのような密度の濃い言葉を探すのですか?

神田 たとえば、「言葉の重みが収入を変える時代」というように、とにかく短いセンテンスのなかに、自分が最も伝えたい想いを凝縮させるようにしています。

矢野 それ、大事ですよね。拙著「NHK式7つのルール」のなかにも、「13文字以内でタイトルをつける」というのがあります。限られた文字数で核心を伝えることが大事ですね。実際、テレビ番組において、私たちアナウンサーが司会をするときも、この力があるゲストの方にマイクを渡します。生放送で「番組時間が残り30秒」という限られた時間内で誰かにひと言もらいたいとき、アナウンサーは「10秒以内で気のきいたコメントをくれるゲストは誰か?」を探すものです。

【第14回】<br />年収を増やしたかったら、<br />MBAより「話し方」を学びなさい。<br />神田昌典×矢野香対談【後篇】矢野 香(やの・かおり)
スピーチコンサルタント。信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。 NHKキャスター歴17年。おもにニュース報道番組を担当し、番組視聴率20%超えを記録した実績を持つ。 大学院では、心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号取得。 現在は、国立大学の教員としてスピーチ研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職、ビジネスパーソン、学生などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。 相手に与える印象の分析・改善力に定評があり、話し方・表情・動作を総合的に指導。全国から研修・講演依頼があとをたたない。 著書に、ベストセラーとなった『その話し方では軽すぎます!――エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)などがある。 【著者オフィシャルサイトはこちら】

スマホ時代の「話し方」はこう変わる

神田 スマートフォン時代を迎えて、特に話し方を意識するようになりました。

矢野 具体的にどういう点を意識していらっしゃるのですか?

神田 とにかく短いキラーワード、キラーセンテンスを最初に伝えるようにします。あとは、飽きさせないようにすることです。そのために、話す内容に応じて背景を変えたり、服装も選んだりしています。内容に応じて話し方を変えるという手もあるのですが、それは少し高度ですよね。それができないのであれば、背景や服装を変えるのはとても効果的です。たとえば、少し真面目な話をするならスーツ。気軽な感じで呼びかけるのであればカジュアルというように。

矢野 とても大事なことですね。「NHK式7つのルール」にも「スタジオセットを考慮した話し方」というのがあり、拙著でも紹介しています。

神田 以前、ミュージカルをプロデュースしたことがあるのですが、それは、これから映像の時代が本格的に始まると思ったからなのです。ミュージカルって、視覚に訴える要素もあるじゃないですか。そのときの経験がいまも生きています。

矢野 ミュージカルと言えば、実は私が非言語表現に興味を持ったのはミュージカルの先生に師事したのがきっかけの一つです。
ミュージカルでは、舞台上でセリフがない役者の方も大勢います。セリフ、つまり言語表現がないから存在感がないかというと、必ずしもそうではない。言葉がなくても存在感を示せるというのは、まさに非言語の世界の醍醐味です。

神田 それで、眉をしっかり上げるわけですね。