個と個が一瞬にして全世界でつながる時代を迎え、時代が一変した。
そんな中、相手の信頼を得るためには、どのような対話を心がけていけばいいのか。ベストセラー『ストーリー思考』著者で日本最大級の読書会を主宰するなど幅広い分野で活躍中の神田昌典氏と、元NHKキャスターで『【NHK式+心理学】一分で一生の信頼を勝ち取る法』著者の矢野香氏が初対談!
「MBAより話し方」とはどういう意味か?
言葉を誰よりも大切にする両者だけに、興味深い対談に仕上がった。
前篇をお送りする。(構成・鈴木雅光)

絶対にウソをつけない「顔の部位」とは?

神田昌典(かんだ・まさのり)
経営コンサルタント、「フューチャーマッピング」開発者。日本最大級の読書会『リード・フォー・アクション』主宰。 上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。 大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済局に勤務。 戦略コンサルティング会社、米国家電メーカー日本代表を経て、1998年、経営コンサルタントとして独立。 多数の成功企業やベストセラー作家を育成。 ビジネス書、小説、翻訳書の執筆に加え、教育界でも精力的な活動を行っており、公益財団法人・日本生涯教育協議会の理事を務める。 おもな著書に『60分間・企業ダントツ化プロジェクト』『全脳思考』(ダイヤモンド社)、『2022――これから10年、活躍できる人の条件』(PHP新書)、『成功者の告白』『人生の旋律』(講談社)、『非常識な成功法則』『不変のマーケティング』(フォレスト出版)、翻訳書に『マインドマップ for Kids 勉強が楽しくなるノート術』(ダイヤモンド社)、『あなたもいままでの10倍速く本が読める』(フォレスト出版)等、累計出版部数は200万部を超える。

矢野 今日はどうぞよろしくお願いいたします

神田 こちらこそ。

矢野 改めてこうして対面してお話しさせていただくと、神田さんはお話になるときの表情に特徴がありますよね。相手を巻き込む力が強い表情でお話しになる。

神田 え、そうですか!? それはまた意表を突かれたところから、対談がスタートしましたね。

矢野 人間の表情のなかで、ここだけは絶対にウソをつけない箇所というのがあります。神田さんはその箇所の使い方が絶妙で、相手にウソをついていない真摯に向き合っている、という印象を与える話し方をなさいますね。

神田ウソをつけない箇所とは? 「目は口ほどにものを言い」とは言いますが……。

矢野眉間です。ここは「ウソがつけない筋肉」と言われています。たとえば、招かれざる客が入ってきたときの眉は、ほとんど動かない。または、眉間にシワを寄せたりします。
 しかし、好感を抱いている人と会ったときには、逆に眉が上がります。だから、眉と眉間を見れば、自分自身が歓迎されているのか、そうでないのかがわかるのです。
 先ほど神田さんは、眉を上げて私を迎え入れてくださいました。ありがとうございます(笑)。

神田 そういう非言語の部分を訓練するにはどうすればいいのでしょうか? 歓迎しているのに、なかなか表情に出せない人もいますよね。

矢野 香(やの・かおり)
スピーチコンサルタント。信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。 NHKキャスター歴17年。おもにニュース報道番組を担当し、番組視聴率20%超えを記録した実績を持つ。 大学院では、心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号取得。 現在は、国立大学の教員としてスピーチ研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職、ビジネスパーソン、学生などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。 相手に与える印象の分析・改善力に定評があり、話し方・表情・動作を総合的に指導。全国から研修・講演依頼があとをたたない。 著書に、ベストセラーとなった『その話し方では軽すぎます!――エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)などがある。 【著者オフィシャルサイトはこちら】

矢野 非言語のためのトレーニングを積むしかありません。ただし、その前提として、表情が自分の感情に合わせて自然に動くようにしておくことが大事です。社会生活のなかで本音を隠すことが多いからでしょうか。特に、男性ビジネスマンの方は、表情が動かない方が多いのです。ですから、まずはできるだけ顔をほぐすことが大事です。

 神田 そうすることで、スピーチがよくなる面もあるのでしょうね。

本音で話すべき? 本音は隠すべき?

矢野 もちろんです。これまで、ビジネスにおいて、立場的に「本音は隠さなければならない」と訓練されてきたエクゼクティブの方が大勢います。しかし、本音を隠してスピーチをしても、聞く人の心は動きません。
 だから、たとえ本音を言葉で表現できない場合でも、心の声を非言語で表現することが大事だと私は思っています。

神田 いままでは「本音を隠して話せ」というトレーニングを受けてきた人がたくさんいたけれども、矢野さんは「本音を伝えなければならない」とおっしゃる。それは時代が変わってきたからかもしれませんね。

矢野 言葉は、「誰が言ったのか」が大事です。本音を隠した話ばかりしていると、誰が言っても同じになってしまいます。聞く相手に本音を伝えるからこそ、信頼を勝ち取ることができる。
 こうした話し方は、自分の存在感の証明でもあるのです。