矢野 先日の衆議院議員選挙でも、数多くの候補者の演説を拝聴しましたが、その「利他思考」かどうかで、聞き手に伝わる強さが変わりますね。「利他思考」の方のスピーチは、それが言葉の力を高めてくれます。しかし、「当選したい」という気持ちが先に立ってしまっている方のスピーチは、徐々に言葉の力が失われてしまうようです。

神田 言葉の力を持ち続けるには、ストーリーを描き続けられるかどうか、が重要です。そのためには、「自分が」ではなく、「この人たちのために自分は何ができるのか」ということを考えることが大切です。

矢野 話を始める前に十分に考えておきたいことですね。そうした準備が十分に整ったうえで口を開くからこそ、一分で一生の信頼を得ることができますね。
 では、最後に、神田さんにとって「信頼」とは何ですか?

神田 トラスト。それは、自分を信頼する力ですね。自分を信頼し続けられると、徐々に他の人も自分を信頼してくれるようになると思います。
 また、自分を信頼できないと、自分の想いを他の人に伝えられません。経営者、リーダーは時々、苦渋の選択を強いられます。そして、どうしてその選択をしたのかを、社員、部下にきっちり伝えなければなりません。
 自分を信頼できれば、部下にも自信を持って、自分が取った行動を説明できます。それが部下の信頼を得ることにもつながると思います。

矢野 自信を持って話すことが、人の信頼を勝ち取ることにつながるのですね。私のスピーチコンサルを受けてくださった方の多くが「自信がつきました」という感想を言ってくださいます。その理由がわかった気がします。2回にわたる対談をありがとうございました。

神田 こちらこそありがとうございました。楽しかったです。
(終)

<著者プロフィール>
矢野 香(やの・かおり)
スピーチコンサルタント。信頼を勝ち取る「正統派スピーチ」指導の第一人者。
NHKキャスター歴17年。おもにニュース報道番組を担当し、番組視聴率20%超えを記録した実績を持つ。大学院では、心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究し、修士号取得。
現在は、国立大学の教員としてスピーチ研究を続けながら、政治家、経営者、上級管理職、ビジネスパーソン、学生などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授。
相手に与える印象の分析・改善力に定評があり、話し方・表情・動作を総合的に指導。全国から研修・講演依頼があとをたたない。
著書に、ベストセラーとなった『その話し方では軽すぎます!――エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)などがある。
【著者オフィシャルサイト】http://www.authenty.co.jp