あれ、国益って何だっけ?

 小さな吐息をつきながら、栗は蜂に連絡した。もしもご近所が一致団結したら、消極的な態度をとっていたとして、自分が村八分になってしまうかもしれない。それでは国益を損ねる(ような気がする)。あれ。国益って何だっけ。まあいいや。何かの利益を損ねるのだ。とにかくみんなの意見を聞いてみよう。蜂は昆布に連絡した。昆布は臼に連絡して、やがて全員が浮かない表情で集まった。

「アメリカがイラクに侵攻したとき、その大義にした大量破壊兵器は存在していなかった。ブッシュ政権はその報告を受けながら握りつぶしていた。なぜなら攻撃すると表明すれば国民からの支持率が上がるからだ」
 腕組みをした臼が重々しい声で言った。「この歴史的教訓を我々はどのように生かすべきか」
 「時代設定がめちゃくちゃです」

 臼をにらみつけながら蟹が尖った声をあげた。「一刻も早く猿を殺してください」
 「親を殺された君が応報感情に囚われることは当然だと思う。でも問題は、我々がその意識を安易に共有してよいのかどうかだ」
 「そもそも猿が犯人かどうかもまだわからない」
 栗が言った。昆布が首をかしげる。首はどこだ。まあいいや。とにかく首をかしげる。

「応報感情とだけ決めつけるのはどうかな。国際社会の安定のために、危険な存在は予防的に抹消するという考えかたもできる」
 「何だよ国際社会って」
 「言葉のあやだよ」
 「そもそも誰が危険な存在を決めるのさ」
 「今は蟹だろ」
 「ならばやっぱり応報感情になるじゃないか。イスラエルになるつもりか」
 「だから時代設定が違うってば」
 「……確かに猿の非道ぶりには、私も迷惑ばかり受けていました」

 翅を神経質そうに震わせながら蜂が言った。「このままでは将来に禍根を残します。今のうちに殲滅すべきです」
 「まずは猿と話し合うべきではないかなあ」栗が言った。でも誰も応じない。蟹の子は必死だ。臼を味方につけなければ猿には勝てないだろう。このときのために蟹臼同盟を結んできたのだ。