ここは「スナックM」(仮名)。渋谷駅から歩いて20分以上もかかる、築30年以上経つ雑居ビルの4階にある。筆者は十数年前から、年に数回のペースで通っていた。高学歴の会社員が常連客として訪れ、賑わうことで知られる。

 カウンターの中にいるのは、60代後半のマスター。髪の毛は、特に頭頂部が薄くなり、初老を感じさせるが、話す内容は異様に若い。大学受験を控える予備校生や、大学に入学して日が浅い学生のレベルと変わらない。

 マスターは右手でグラスを握り、それに口をつけ、酔ったふりをしつつ、客と掛け合いの漫才のように話を進める。決まって、「どこの大学出身?」「ああ、あそこではねぇ……」「さすが……!」などとまくしたてる。

 大きな声でどこか虚しく笑うのは、カウンターに並ぶ常連客だ。横に並ぶ10人ほどの客の前で自らの出身大学を答えることに、喜びを感じる。20~30年前の優越感をくすぐられるのだろう。逆に言えば、「今」を語ることができない。

「偏差値60以下の大学なんて……」
学歴話に気を良くする常連客たち

 大手予備校の偏差値ランキングで言えば、「60」以上の上位校を卒業した社員たちがずらりと並ぶ。マスターはボディランゲージ入りで、「偏差値60以下の大学出身者はうちには入れない!」「出入り禁止!」と騒ぐ。客たちはどっと笑う。喜び、手を叩く者もいる。

 その大半が、現在大企業やその関連会社に籍を置く。40代でありながら役職がない人もいれば、本部長をわずか1年で解任された人もいる。部長もいるが、部下は数人しかいない人が多い。部下がいない部長すらいる。

 大企業の役員や関連会社の社長などの「勝ち組」は、この店には1人もいない。中小やベンチャー企業などの創業経営者、自営業などもいない。ここは、高学歴の「負け組社員」のみが集う酒場なのだ。