メスがいっきに胸骨の下から右わき腹に向けて走り、切開創から血液が湧き出た。「電気メス」と看護師に声をかけ、出血部を焼いていくS先生。私はS先生の正面に立つ第1助手、私の左側はレジデントのN先生だ。

 「比較的血は止まりやすそうですね」と私。「B型肝炎は突然変異でガンができるから比較的肝機能が保たれ、血小板数も減らないからね」とS先生。淡々と手術は進んでいく。「よいしょ」というS先生の掛け声とともに肝臓の右側の房に小児の頭ほどの大きさの巨大肝ガンが飛び出してくる。

 「やはり、相当大ものですね。今日はキューサー(超音波裁断機)だとミストが飛ぶと思い、マイクロ波凝固装置を用意しています」と私。ミストとは霧状になった体液を指す。「手術ではよく目に血液が入ったけど、意外と感染しないもんだね」とS先生。

 肝臓の約六割を切除し、まるで帝王切開でお腹から赤ちゃんを取り出すように肝右葉とともにがんを取り出し、肝臓切除手術は無事終了した。

 「出血量2438ml、輸血1000ml、尿量832ml」麻酔科医師への手術場看護師の声が聞こえる。われわれ外科医の手術衣はおなかを中心に真っ赤に染まっている。紙でできている足袋はかなり血液が染み込んで足の指がベトベトしている。「防水シートをうまく張ったから今日はパンツ汚れてないよ」と、N先生の下腹部を見ながら私。N先生は手術衣を脱ぎながら自分の下腹部をのぞいている。