ロッテ、エステーなどの日本企業から、コカ・コーラ、ルイ・ヴィトンなどの欧州名門ブランド、さらには「箸」や「桶」の伝統工芸職人まで――文字通り世界中から「引っ張りだこ」のデザイナー、佐藤オオキ。常時300超の案件を同時進行で解決するその「問題解決力」を初めて明かした『問題解決ラボ』から、選りすぐりの「ひらめき」の技術を全5回で紹介します。「ユーザーを知ろう」とは、モノづくりやアイデア出しの際によく言われますが、そのために役立つ「4つの階層」とは?

【1】
「美味しいデザイン」と「まずいデザイン」の見分け方

 たまにテレビをつけると、便秘解消系のお茶やサプリメントのCMが多いことに驚きます。おじさん、おばさんが笑顔で「ドッサリ出ました」って、そんな報告聞きたくないですよ、ほんとに。「かに玉」のCMがその直後に流れても、さすがに食欲をそそりません。

佐藤オオキ
デザイナー。デザインオフィスnendo代表。1977年カナダ生まれ。2000年早稲田大学理工学部建築学科首席卒業。2002年同大学大学院修了後、デザインオフィスnendo設立。「小さな“!”を感じてもらうこと」をコンセプトに、東京・ミラノ・シンガポールを拠点として、建築・インテリア・プロダクト・グラフィックと多岐にわたってデザインを手掛ける。
Newsweek誌「世界が尊敬する日本人100人」(2006年)、「世界が注目する日本の中小企業100社」(2007年)に選ばれる。また、Wallpaper*誌(英)およびELLE DECO International Design Awardをはじめとする世界的なデザイン賞を数々受賞。2015年にはMaison et Objet(仏)にて「Designer of the Year」を受賞。代表的な作品は、ニューヨーク近代美術館(米)、ヴィクトリア&アルバート博物館(英)、ポンピドゥー・センター(仏)など世界の主要な美術館に収蔵されている。2012年から早稲田大学非常勤講師。
写真:©Toru Hiraiwa for Pen Magazine

 ところで、デザインにも「美味しそうな形」と「まずそうな形」があると思います。私たちは果物や野菜を選ぶとき、無意識に形や肌合い、傷み具合などからその味をある程度予測しています。これを応用すれば、工業製品のデザインについても、素材や色や膨らみのある形状など、「鮮度」の高さをユーザーにアピールすることで、生き生きとしたものが生まれるんじゃないか、と思うわけです。

 2010年、「スリー(THREE)」という化粧品ブランドの立ち上げ時にパッケージをデザインしたことがあります。化粧水や乳液などのスキンケアアイテムから、リップやファンデーション、アイシャドーといったメークアイテムまで、かなりの数を手掛けたのですが、これらの多種多様なものを棚に並べたときに、ピシッと揃うような寸法にすることで、「凜とした」佇まいを持たせようと考えました。

 というところまではよかったのですが、出来上がった試作品を見たら、どこか「まずそう」な印象に……。

 そこで角にわずかな丸みを帯びさせたり、しっとりとした触感のあるラバー塗装を施したり、平らな面を微妙に膨らませたりしてみました。すると、「きれい」「カッコイイ」といった声だけでなく、ユーザーから「手に馴染む」「持ち心地がよい」といった評価もいただけました。

自然界には「平滑な面」はほとんど存在しないので、人間本来の知覚能力を混乱させ、不安な気持ちにさせるのかもしれません。いわば、キューブリックのSF映画「2001年宇宙の旅」のモノリス(人工物の黒い石柱)登場でテンパったサルみたいなもんです。

 さらに言うと、人間の目には平らな面が多少「凹んで」見えるらしく、凹んでいるものは「傷んでいる」と感じるので、そもそも「まずそうな形」だったのでは、と思ったのです。

 考えれば考えるほど、こういった「美味しい」デザインの可能性はまだまだ広がりそうです。近々、かに玉が抜群に美味しく見えるような便秘解消薬のCMのデザインを考えてみようと思います。……もちろん、うそです。