イラスト/びごーじょうじ
ここ数年、話題になった飲食業態に立ち飲みスタイルのフランス料理店がある。圧倒的な低価格は業界に大きなインパクトを与え、その人気は今も続いている。焼いた牛肉とフォアグラにトリュフのソースがかかった「牛フィレ肉のロッシーニ風」は名物メニューで、客の8割がオーダーするそうだ。
さて、ロッシーニ風という名前の由来はもちろん音楽家のロッシーニからだ。美食家の彼はフォアグラとトリュフが入った料理をいくつも考案している。例えば「ロッシーニ風オムレツ」といえば、フォアグラとトリュフが入ったオムレツのことである。
本業の音楽家としては『セビリアの理髪師』や『ウィリアム・テル』などのオペラ作品で知られ、イタリアで最も人気の作曲家だった時期もある。だった、と過去形なのはベートーベンがうらやむほどの大成功を収めた後に、オペラから早々と引退したからだ。
音楽の第一線から退いたロッシーニは年金暮らしの傍ら、飲食店を経営、美食三昧の毎日を過ごした。作家のスタンダールは「ロッシーニは20枚のステーキを食べ、太っている」と書き残している。そんな生活をすれば早死にしそうなものだが、76歳という享年は当時としては長生きだ。こういう例外がいるので「長寿の食卓」について考えるのは難しい。
美食による肥満は間違いなく早死の原因となる。医療が進んだ現在では単純に肥満と寿命の関係を結び付けることはできないが、肥満は心臓病や2型糖尿病、いくつかのがんのリスク増大と関連していることが指摘されている。
それでもロッシーニが長生きできたのはなぜだろうか。