アベノミクスで一般の人にもなじみ深くなった金融政策。でも、どのように景気をコントロールしようとしているのか説明できるだろうか?経済のことをきちんと学んでこなかった人のために、新刊『今までで一番やさしい経済の教科書[最新版]』の著者・木暮太一氏が誰でもわかるように、やさしく解説する。

景気対策って何をするの?

景気はどうやって「調整」されているのか?木暮太一(こぐれ・たいち)
経済ジャーナリスト、一般社団法人 教育コミュニケーション協会 代表理事。慶應義塾大学 経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。相手の目線に立った話し方・伝え方が、「実務経験者ならでは」と各方面から高評を博し、現在では、企業・団体向けに「説明力養成講座(わかりやすく伝える方法)」を実施している。 フジテレビ「とくダネ!」(木曜レギュラーコメンテーター)、NHK「ニッポンのジレンマ」、Eテレ「テストの花道」などメディア出演多数。『カイジ「命より重い!」お金の話』『超入門 資本論』など著書多数、累計120万部。

 みなさん、景気がいいのと悪いのでは、どっちがいいですか?景気がいい方が好ましいですよね。そりゃそうです。だから、ほとんどの国民が政府に対し、景気が良くなる政策を期待しています。

 バブルが崩壊してからこの20年、日本経済は常に「不景気」です(少なくとも実感としては)。そのため、選挙のたびに「次はこんな景気対策をやります」というアピールを聞きます。

 うん、でも結局何をやっているかよくわからないな。

 そういう方も多いと思います。ここでは改めて景気対策の中身を詳しく解説していきます。景気対策には大きく分けて「金融政策」「財政政策」の二つがあります。今回は「金融政策」、次回は「財政政策」を、それぞれの政策の内容と、「それをやると、理論的にはどうなるはずなのか」を説明していきます。

金融政策って何?

 金融政策は「世の中のお金(現金)の量を調節することで、経済を安定的に成長させようとする政策」です。この政策は選挙で選ばれた政治家が行うのではなく、日銀(日本銀行)が実施します。

 世の中のお金の量を調整するといっても、これは別に日銀が国民の財産を取り上げたり、お小遣いをくれたりするわけではありません。日銀は主に銀行が企業や個人に貸し出すお金の量を間接的にコントロールします。そうすることで、「景気」をある程度コントロールできるようになります。

 ん? お金の量を調整することで、ってどういうこと?

 ぼくらも日々、お金を使っていますよね。何気なくお金を手にして使っていますが、じつは日本国内に流通している「お金の量」(現金)が変わると、景気が良くなったり悪くなったりするんです。

 例として、とても単純に話をします。たとえば、世の中にあるお金がどんどん減って、みなさんの手元の現金が少なくなったら、どうなるでしょう?商品を買えなくなりますよね。商品を買うことができなくなれば、お店は売上が減ってしまいます。その結果、世の中全体として景気が悪くなっていきます。

 つまり、

●世の中のお金の量を減らす
 ↓
●消費者の手持ちのキャッシュが減る
 ↓
●消費者が商品を買えなくなる
 ↓
●お店が儲からなくなる
 ↓
●景気が悪くなる

という流れが起こるのです。

 反対に、「現金がなくて買えない!」という状態が変わったらどうでしょう?これまでは買いたくても買えませんでした。貧乏で買えないのではなく、手持ちキャッシュがないから買えなかったわけです。その「手持ちキャッシュ」が増えたら?買えるようになりますよね。そしたら景気は良くなっていきます。つまり、

●世の中のお金の量を増やす
 ↓
●消費者が商品を買えるようになる
 ↓
●お店が儲かるようになる
 ↓
●景気が良くなる

という流れが起きるのです。