日本では、子どもの6人に1人が貧困状態にある。その背後にあるのは、家庭の貧困であり、親たちの貧困だ。とりわけ、ひとり親家庭の貧困率は50%を超えており、深刻な状況となっている。
しかし現在、子ども時代のまっただ中にある子どもたち、特に貧困状況にある子どもたちに対し、美味しい食事・幸せな時間・地域とのつながりを無料で提供する「子ども食堂」の試みが、全国各地で行われている。
今回取材した「大阪子どもの貧困アクショングループ(CPAO)」の「いくのCPAOしょくどう」も、その一つだ。
昭和にタイムスリップ?
子どもたちと大人たちの楽しい空間
2015年2月27日夕方、大阪環状線寺田町駅から外に出た私は、スマートフォンのナビゲーションを半信半疑で眺めていた。画面には目的地と、そこまでの経路が示されている。しかし周辺を見る限り、示された経路どおりの道路が存在するようには見えない。駅構内の地図も参照して、スマートフォンの画面をもう一度よく見てみる。目的地の方向は間違いなさそうだ。ナビゲーションの示す道路が本当に存在するかどうかは不明だが……。
Photo by Yoshiko Miwa
この夕方の私は、「大阪子どもの貧困アクショングループ(CPAO)」が開催する「いくのCPAOしょくどう」に参加し取材するため、CPAOの事務局が置かれている「松野農園」へと向かっていた。CPAOは2014年11月より、「いくのCPAOしょくどう(大阪市生野区)」「とんだCPAOしょくどう(大阪府高槻市)」の2つの「CPAOしょくどう」活動を行っている。「CPAOしょくどう」の意図は、
「子どもは無料! でごはんを一緒につくって食べようという試みです。しんどい状況にあるシングルマザー親子に『実家の様な居場所を地域につくろう』、地域で『子どもたちを見守りサポートしよう』という、”養育の社会化”のモデル事業として進めていく予定です(CPAOブログより)」
ということだ。主に子どもたちを対象とした「子ども食堂」には、「要町あさやけ子ども食堂」など数多くの先行例がある。また、15~25歳の若者を主対象とした(社)ストリート・プロジェクトの「ごちハウス」の試みもある。
「子ども本人や若者本人を主対象にしている既存の試みと、様子や雰囲気はどう違うのだろう?」
と考えながら、ナビゲーションの指示に従って進むと、幅1.5~3メートル程度の細くぐねぐね曲がった道があった。両側には、個別の浴室のない木造アパートを含め、昭和20~40年代に建造されたと思われる建物が数多く立ち並んでいる。道沿いには銭湯があり、ジェットバスなど数多くの浴槽のある「スーパー銭湯」となっている。近隣住民だけを客層とする昔ながらの銭湯経営は、この地域でも苦しくなっているようだ。ちなみにこの地域は、大阪大空襲の被害を免れたため、戦前からの町並みや道がそのまま残っているのだとも聞いた。
廃業した銭湯・廃業した豆腐屋などと思われる家屋を眺めつつ、路面のあちこちにある陥没に車椅子の車輪を取られないように注意しつつ15分ほど行くと、目的地らしき建物が見えてきた。近づいてみると、内側にいた誰かが入り口のガラス戸を開けた。子どもたちの歓声が聞こえ、美味しそうな匂いが漂ってくる。間違いなさそうだ。