生活保護を正面から主題とした日本初の漫画作品「陽のあたる家 ~生活保護に支えられて~」で話題を呼び、同作品で「貧困ジャーナリズム大賞2014」特別賞を受賞した漫画家・さいきまこ氏が、子どもの貧困を主題とした新連載「神様の背中」を開始している(秋田書店「フォアミセス」誌2014年12月号より)。「陽のあたる家 ~生活保護に支えられて~」が果たせたこと、そして、さいき氏に残った「宿題」は何だったのだろうか? さいき氏は「神様の背中」で何を描き出そうとしているのだろうか?
貧困の成り立ちを描き出す意欲作
さいきまこ「神様の背中」
レディースコミック誌を中心として活動している漫画家・さいきまこ氏(本連載での過去のインタビュー)は、2013年、生活保護を正面から主題とした日本初の漫画作品「陽のあたる家 ~生活保護に支えられて~」を発表し、大きな関心を集めた。作品は単行本化され、現在は2刷が販売されている。また、さいき氏は同作品で「貧困ジャーナリズム大賞2014」特別賞を受賞した。さいき氏は、それらの達成と反響に満足することなく、次の一歩を踏み出している。
秋田書店のレディースコミック誌「フォアミセス」2014年12月号から連載開始となっている「神様の背中」の主人公は、出産を機に退職した元小学校教員・仁藤涼子だ。臨時採用ではあるものの、12年ぶりに教員として公立小学校の教育現場に復帰し、小学5年生のクラスを担任している。しかし涼子は仕事と家庭との両立に悩む。
そして担任しているクラスには、ほんの少しだけ注意を向ければ、さまざまな形で「危機」のサインを発している子どもたちが数多くいる。親の目が行き届かず、食事を与えられていないため、おにぎりやサンドイッチの万引きを繰り返す男子児童。学校のプリントに目を通す時間もない母親は、就学援助などの支援制度の存在を知らない。自傷を繰り返す女子児童は、母親とともに生活保護を利用して暮らしている。その母親の生活ぶりは、目を覆うばかりの自堕落ぶりだ。男と遊び歩いている様子をSNSで頻繁に公開しており、周囲には「アルコール依存症ではないのか?」と見られている。
悩む主人公に、登場人物の一人である養護教諭は、このような言葉をかける。
「先生、もう知っちゃったんですよ。見ようとしなければ見えないものがあるって。シグナルの発見って、見えなくても『ある』って知ることから始まりますから。それを知った人だけに、助けを求めて伸ばされてる手が見えてくるんです」
もしかすると、このセリフから2つのキーワードを思い出される方もいるかもしれない。20世紀前半に活躍した米国の精神科医であるハリー・スタック・サリヴァンが “participant observation”“alertness”と呼び、日本の精神科医・中井久夫が「関与しつつの観察」「目ざとさ」と訳したものだ。