トヨタ自動車の強さの源である「トヨタ生産方式」。元副社長の大野耐一氏が『トヨタ生産方式』(ダイヤモンド社)を著してから今日まで40年近く、その方式を導入したり真似したりする日本企業は多い。しかし、「正しく社会に浸透していない。きちんと実践すれば、日本企業はもっと収益を上げられるのに」――。大野氏の側近だった鈴村喜久男氏の長男で、自身もトヨタ自動車に入社し、系列企業などにトヨタ生産方式を指導してきた鈴村尚久氏は、コンサルタントとして独立後、現場で強くこう感じた。この思いをかなえるため、『トヨタ生産方式の逆襲』(文春新書)を世に問うた。鈴村氏に「トヨタ生産方式」の神髄を聞いた。(聞き手/「ダイヤモンドQ」編集部 編集委員 大坪亮)
Photo:Natsuki Sakai/アフロ
トヨタ生産方式は
誤解されて広まっている
――著書名『トヨタ生産方式の逆襲』は、どういう意味ですか?
トヨタ生産方式が、誤解されて世の中に広まっている、矮小化されたり曲解されたりしている、目的を見誤った努力をしていることが多いのです。
1976年、京都大学法学部卒業後、トヨタ自動車工業(現、トヨタ自動車)入社。経理部、第2購買部、産業車両部、生産調査部、販売店業務部、国内企画部に勤務。1997年、退職。1999年、エフ・ピー・エム研究所を設立して、現在に至る。父・喜久男氏(故人)は、「トヨタ生産方式」の生みの親・大野耐一氏の右腕 Photo:DOL
たとえば、トヨタ生産方式と言うと、すぐに「製造部門の効率化」と考えられる。ストップウォッチを片手に生産ラインの脇に立って、時間当たり生産性を高めることだと考えている人が多い。トヨタ生産方式の経営コンサルタントと称して、そういう指導だけを行っている人がいる。
しかし、極端なことを言えば、“不要な製品を効率よく生産しても”意味がないわけです。売れる以上に製品を効率よくつくって、過剰在庫を抱えてしまったら損失です。間違った方式を指導され、実行して、成果が出ないと思われてしまっている事態を多々目にして、なんとかしたいと思ったのです。
企業活動の目的は、儲けることです。利益を高めるためには、どうしたらいいかと考え、やり方を改善していくことが重要なのです。
本来のトヨタ生産方式を提示し、実践してもらえば、もっと儲かると思い、編集者と相談して、このタイトルになりました。