焼き鳥屋で最初に
ミシュランの星を獲得した店に教えを乞う

 しかし、皮まで美味しくする知恵はないのか。そんなことを考えていて、そういえばと思い出した友人がいる。和田利弘という。あの焼き鳥屋として最初にミシュランの星を獲得した、銀座バードランドの名料理人である。

 その和田さんが、何かの雑誌の企画だったか、上記のような安い肉を、それも、ピチットシートのお世話にもならず、高級地鶏との勝負に勝ったという話を思い出したのだ。素人さんだったか、若手の料理人だったかがブランド鶏を焼き、和田さんは特売ブロイラーを焼いて、食べ比べるという競争。それで、安い肉の和田さんが圧勝した。ま、そんなエピソードなど必要もないか。とにかく、その焼き鳥名人に、皮、アブラ身のことで話を聞いてみたいと思ったのだ。

 しかし、開口一番、「いやあ、肉はごまかしようもあるけど……」と和田さん。レバーなどの内臓もの、そして皮は、質の悪いものでは、どうにもならないという。いくら肉焼き名人をしても、そのあたりは化けさせられぬ、と。つまり、アブラを含めたそのあたりの部位は、本物でなければ、どうにもならないということである。

 というわけで、バードランド銀座、いや、それだけでなく、弟子筋の阿佐ヶ谷バードランド、あるいはバードコート(北千住)などでは、奥久慈シャモという、茨城県北部の地鶏を使っている。“本物”を追求した結果である。今では、けっこうその名が知られるようになったが、もとをたどれば、和田さんが有名にしたといっても、どこからも文句は出ないはずだ。では、何故、その奥久慈シャモなのか。茨城が故郷なのは知っていたから、その縁かと思っていたら違った。あれこれ、試しているところで出会ったのだという。和田さんは学生時代、焼き鳥屋でアルバイトをしていた。鶏の専門店とかではなく、いわゆる焼きトン等も出す店。そこから、自分の小さな店をはじめ、それが人気を集め、変遷を経て今に至るのだけど、初期の試行錯誤のうちに出会って、これだという話になったとか。

これが奥久慈シャモ。ブロイラーよりも一回り大きい。その一般的なブロイラーが50日ほどの肥育であるのに対して、雄で125日、雌で155日ほどの時間をかけて育てられる

「ブロイラーが一般化して、鶏は軟らかいと言うイメージが出来たけど、それ以前は廃鶏なんかを食べていたから、硬いものだったじゃないですか」(和田さん)

 ブロイラー(broiler)はもともと肉用の若鶏(小型の)を意味する言葉だったが、大規模な養鶏施設で短期間(50日ほどだ)に効率よく商品とすることが出来るということで発達したものである。20世紀前半のアメリカでそのスタイルができあがり、日本にも第二次世界大戦後、入ってきた。それ以前の、たまに卵を産まなくなった廃鶏など、硬いとはいっても、たまのご馳走として食べるというものから、肉食が日常になる時期でもあり、ブロイラーが席巻するような状況だった。

 かくして、鶏は軟らかいものというイメージが出来上がっていくわけだが、そこから、単純に柔らかいだけではなく、噛めば味わいのある地鶏が「再発見」されていく。まあ、本来の味わいある地鶏など、どれだけの層が食べていたのか……というものだったから、再発見というべきか、新発見というべきか、難しいところだけど。