──腕だけではなく目も重要、と。

「前の職人がよく言っていたけど、例えば小魚なんか1月と3月なんかでは全然違うわけよ。それを微調整できるのが職人技なのよ。それっていうのはいろんな場面に出くわして経験しないと身につかない」

 この日は結局、炊き上がるまでに3時間かかった。職人はそのあいだ佃煮の面倒を見続け、火加減を微妙に調整していく。炊きあがった佃煮は台に移し、さましながら混ぜあわせていく。2つの鍋の中身を1つにすることで味が安定するのだ。

大量生産品との違いは一目瞭然
課題は「佃煮を知らない子ども」の増加

左が遠忠食品の佃煮、右が大手の大量生産品。違いは歴然だ

 事務所でちょっとした実験をしてもらった。瓶に遠忠食品の佃煮と近所で買ってきた大量生産品のものを同じ量(今回は10g)ずつ入れ、お湯を注ぐ。撹拌してしばらく置くと、違いは一目瞭然だ。大量生産品に対して、遠中食品の佃煮は沈殿物が多い。つまり海苔が多く使われているのだ。

「面白いでしょ。大量生産品が悪いっていうつもりは全然ないんだけど、わかりやすいからさ。海苔の量が全然違う。昔は河岸に行くと仲卸がこういうことをして仕入れる商品を見極めていたわけ。『なんだよ、お前のところは海苔を全然使ってねぇな』とかね。スーパーとかで売っている安いのを食べて、これが佃煮だと思われちゃうのは悲しいよね」

 優れた品質の商品で本物志向の消費者から支持される一方、漁師の高齢化にともなう原材料の入手など今後の課題もある。

「課題はあるけど、そういう危機ってのはいつでもあるから……昔の話だけど、うちってスーパーとかで売られている『味付け豆もやし』のパックを最初につくった会社なのよ。その頃はバンバン売れて毎日、日本橋で3トンつくっていたんだって(笑)。それで間に合わないっていうから、工場をこっちにつくって。聞いた話だとパートさんも100人くらいいたらしいけど、ところがああいうものって他が真似して値段の安いものが出まわるようになると、結局売れなくなるんだよね。それで、やめちゃった。それで俺が入ってから無添加志向、国産志向に徐々に変えていった。で、今に至るような感じ」

 会社に歴史あり。本物を求める消費者が増えてきた、ということなのかもしれない。そうしたなかで国産のザーサイなどのヒット商品も出てきた。