「来年、若者自立塾に参加してみようと思っていたんです。でも、事業仕分けで廃止になってしまったと聞いて、頭を強く殴られたような気持ちになりました」

 厚労省の就労支援事業である「若者自立塾」が、行政刷新会議(議長・鳩山由紀夫首相)の「事業仕分け」で国の支援を廃止すると宣告されたのを受けて、12月14日に開かれた緊急フォーラムで、客席からこう発言した男性がいた。都内で両親と一緒に住む、元引きこもりというXさん(29歳)だ。

 そのXさんに声をかけ、後日、慌ただしく人の行き交う師走のターミナル駅で待ち合わせした。ハードロックがガンガン流れるカフェの中で、彼は言った。

「自分の思いというものがあったので、つい発言したくなったんです」

 人前で勇気を出して発言せざるを得なかった、その思いとは、何だったのか。

「引きこもり」に追いやった
体罰、言葉によるいじめ・・・

 Xさんは子どもの頃、目立ちたがり屋だった。ところが、中学2年の頃から、自分の気持ちを抑えつけるようになった。「気持ちを抑えたほうが、友人もできやすいし、女の子にもモテる」と思ったからだ。しかし、そのことで逆に苦しむようになり、心のバランスがとれなくなったという。

 父親は、大手メーカーに勤務し、母親は専業主婦という、ごく普通の家庭に生まれた。しかし、中学のとき、父親の転勤に伴い、九州の学校に転校。「九州男児だろ!」などという根性論を植え付けられ、教師から頭を殴られるなどの体罰を受けた。

 「普通じゃないな」と、Xさんは思った。以来、同級生からも、言葉によるいじめを受け、傷ついて不登校になった。そのとき、何を言われたのかは、覚えていない。

 「(Xさんの)顔が嫌だっていうやつもいました。自分を抑えつけていて大人しいから、いじめやすかったのかもしれません。同級生の間で、いじめられっ子として、有名人になっちゃったんですよ」

 その後、Xさんは2年間、公立高校に通った。しかし、父親が東京に転勤した3年のとき、退学を決めた。もう高校へ行く気にはなれなかった。その頃から、外に行くことができなくなっていた。