「独立を求めるつもりは毛頭ない」
ダライ・ラマ14世が目指す「中道」とは

 中国人の兄弟姉妹であるみなさま、私にはチベットの独立を求めるつもりは毛頭ありません。また、チベット人と中国人の間にくさびを打ち込もうとも思っていません。それどころか、私はこれまでずっと、チベット問題に対する真の解決策、すなわち、中国人とチベット人の双方が確実に長期的な利益を得られる道を見出そうと努力してきました。何度も繰り返し申し上げているように、私がもっとも重視しているのは、チベット人独自の文化、言語、アイデンティティーを確実に存続させることです。仏教の教義にもとづいて日々精進している一介の僧侶として、私は、私の動機が偽りではないことを断言します。(18ページ)

 一九七四年、チベット亡命政府のカシャック(内閣)および当時の亡命チベット代表者議会の正副議長と慎重に協議した結果、私たちは「中道(ちゅうどう)」を見出すべきだと判断しました。「中道」とは、中国からの独立を求めるのではなく、チベットの平和的発展を推進する道です。

(中略)

 私たちはまた、チベットが中華人民共和国という枠組みにとどまるならば、少なくとも近代化と経済発展に関しては、大いにチベットに利することになるだろうと考えていました。チベットは古くからの豊かな文化遺産に恵まれていますが、物質的にはまだまだ遅れていたからです。

(中略)

 一九七九年、当時の国家主席鄧小平(とうしょうへい)氏は、「チベットの独立を除けば、他のすべての問題は交渉可能である」と私の特使に断言しました。私たちはこれをあらたな好機の到来ととらえました。このときすでに、中華人民共和国という政治体制の枠組み内でチベット問題を解決する道を模索する、という方針を表明していたからです。

 私の代表団は中華人民共和国の指導者たちと何度も会見を行いました。二〇〇二年にふたたび交渉が始まって以来、私たちは六度にわたる交渉を重ねています。しかしながら、根本的な問題に関しては、具体的な進展はまったくありません。これまでにも何度も述べてきましたが、私はこれからも「中道のアプローチ」を断固として貫き、対話を通じて問題を解決していくつもりです。ここであらためて、私の決意をお伝えしたいと思います。(22~24ページ)

 ラサ騒乱から1ヵ月超が過ぎた4月25日、中国政府は米国など複数の国からのアドバイスを受け入れ、ダライ・ラマ14世に直接対話の再開を呼びかけました。
   ダライ・ラマ14世は、チベットと中国の双方の利益につながる「中道のアプローチ」を断固として貫くこと、チベットが求めているのは「高度な自治」「中華人民共和国憲法で保障されている完全な自治」であることなどを主張しましたが、チベット亡命政府内の急進独立派であるチベット青年会議が組織したデモの参加者はチベットの自由解放、独立を求めていたため、チベット亡命政府と中国政府との対話は当初から困難なものとなりました。両者の直接対話は北京五輪をはさんで三次にわたって続けられたものの、交渉はまったく進展せず、物別れに終わったのです。